2011/04/06

「・・・・・」

高校2年の冬。

体育でやった柔道で投げられて頭を打ち、僕は軽い脳震盪を起こした。

念のためにと行った病院で診てくれた初老の医者は、
川端康成のようないかにも鋭く、冗談のひとつも言いそうにないタイプだった。

いくつかの検査をして、結果は問題なし。

念のためとはいえ少しドキドキしていた僕は、結果を聞いて安心したのか
医者に軽口を叩いた。

「頭打っちゃったから、もう東大いけなくなっちゃいまいたよー。へへへ」


「・・・・・」


医者はカルテを書いていて、なにも答えない。

「・・・・・」

しまった、怒らせたか。

続く沈黙。


耐えられず、さっきの言葉はもうなかったことにしようと思ったそのとき、

医者はカルテから目を離し、僕を見つめて言った。


「まあ、東大がダメでも京大があるから」


やられた。
医者にやられた。

医者の沈黙にやられた。

いわゆる「間」がなによりも大切だと知った。


きょうのあなたの言葉

「・・・・・」 by医者

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