欲しいものがあれば奪ってでも手に入れてきた。
相手を裏切ること、欺くことに思考を総動員してきた。
じゃないと生き残れなかった。そういう環境、集団で育ってきたのだ。
だからこの集団から一歩外に出れば、自分の評判が最低最悪であることは当たり前だった。
「悪事は千里を走る」
もちろんあいつの耳にも俺の悪い噂(ほぼ事実)は届いているはずだった。
なのにあいつは俺を信じた。俺の言うことをすんなりと信じたんだ、クソったれめ。
あいつは相手を疑うことを知らなかった。
正直戸惑った。
俺は相手を疑うことしか知らなかったからだ。
「すべてを疑え」
その言葉だけを信じてきた。
変われるかもしれない。あいつと出会ってそう思った。
でも変わるのは怖かった。
だから試すつもりだった。
あいつを傷付け、それでも俺を信じてくれたなら、変わろうと決意できる気がした。
そういう方法しか思いつかなかった。
あいつが俺を頼ってくれた時、ここだなと思った。
俺はあいつを故意に傷付けた。
殺意なんてこれっぽちもなかった。
でも手加減を知らなっかった俺はあいつを殺してしまったのだ。
事故だったと言っても誰も信じてくれないだろう。
傷害致死、業務上過失致死、罪状なんてどうでもよかった。
この命で償おうと思った。
あいつにはたった1人の息子がいたはずだ。
その息子に連絡し、住所を教え、家に呼んだ。
謝罪のためではない、殺してもらうためだ。
次の日、あいつの息子は仲間を引き連れてやってきた。
あまり記憶にないが、栗、臼、蜂だったと思う。牛糞もいたか。
彼らの攻撃をあるがままに受け入れた。
これで償いになるだろうか。あっちであいつに会ったら仲良くできるかな。
でも俺は地獄行きだな。天国にいるあいつには会えないのかな。
そんなことを考えながら、俺の意識は途絶えた。
しかし俺は生きていた。悲しいほどに生きてしまっていた。
意識が途絶える瞬間、
「やめろ、もう充分だ。」
たしかにそう聞こえた。
やっぱりあいつの息子だ。カニ一族は慈悲深いのだ、クソったれめ。
俺は初めて泣いた。声をあげて泣いた。涙が枯れるまで泣いた。
あいつの息子が俺を殺さなかったことが悲しかった。
自らの手で命を絶つことも考えたが、そんな勇気はなかった。
ある日途方に暮れていた俺のもとに知らせが届いた。
とある男が戦地に向かうため傭兵を募集しているとのことだった。
最後のチャンスかもしれない。死ぬチャンスだ。
だから俺はあのクソまずい団子と引き換えに戦地に赴いたのだ。
同じ部隊だったキジも犬も動物園にいる象のような悲しい目をしていた。
クソまずい団子に命を託す理由があったのかもしれない。聞く気にはなれなかった。
この戦争の顛末をあんたたちは知っているだろう。
やっぱり死ねなかったんだ。
あれから5年経った。
俺は未だに死ねず、旅を続けている。俺を終わらせるための旅だ。
お坊さん、河童、豚とともに。
この旅の顛末もあんたたちは知ってるんだろうな。
「憎まれっ子世に憚る」って
ありゃホントだ、笑っちゃうよな、クソったれめ。
タイトルにセンスを感じます。いつも。
返信削除いつもありがとうございます。
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