2011/04/06

最後の一本を吸い終わったらスーツに着替え、

あっさり手首でも切って死のうと男は決めていた。

仕事を失い、妻と子供も失った。

シャツとスーツを枕元に置き、ベッドの端に腰かけた。

これまでの人生をゆっくりと思い出してみる。ゆっくりと走馬灯を見ているような気分だった。

ポケットを探り、マッチを擦る。

その瞬間窓ガラスが大きな音を立てて割れた。

それからのことはあまり記憶にない。

見知らぬ男に突き飛ばされ、気付いた時にはスーツと最後の煙草はなくなっていた。

わけがわからないと思ったが、自分が取るべき行動はすぐにわかった。

通報することなど思いつきもしなかった。

全てを失ったのだ、死ぬきっかけだけは失うわけにはいかない。

深呼吸をし、男は走った。

(つづく予定)

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