父の葬式が終わったら、この業界から足を洗い、
あっさりドライクリーニングの運搬車にでも轢かれて死のうと男は決めていた。
父は栄光ある怪盗一族の三世であった。
四世である自分が詐欺容疑ですんなりと逮捕され、一族の名を汚してしまうとは父も思っていなかっただろう。
出所したその日の午後に父の葬儀が行われることを、侍のような格好をした老人から聞いた。
そうか、スーツが必要だなと思った。
最後ぐらいきちんとした身なりで物言わぬ父に懺悔するべきなのだ。
しかし怪盗であるこの男の友人はもれなく皆怪盗であるため、刑務所から出てきたときにはもう自宅ごとなくなっていたのだ。
もちろんスーツだってない。
仕方がなく男は、いささか乱暴な方法ではあったがスーツを調達した。
ボロボロのパーカーとジーンズとコンバースは公園のトイレに放置し、スーツに裸足という格好でベンチに腰掛けた。
スーツにコンバース?ナンセンスだ。
裸足のほうがまだいい。
照りつける太陽をにらみながら、男は革靴の調達方法を考えていた。
目の前を白いスーツの男が走り去った。
何だろうと眺めていると、
その数秒後、黒いスーツに身を包んだ男がぜいぜい言いながら走り去った。
奇跡とはこのことかと男は思った。
追う者には面白いほど隙ができるということを男はこれまでの経験から学んでいた。
あの革靴をいただこう。
スーツのついでに拝借した煙草に火をつけ、煙で肺を満たした。
そして吐き出し終わると同時に、男は走った。
その煙草の本来の持ち主が数メートル後方まで迫って来ていることなど全く気が付かなかった。
追う者には面白いほど隙ができるのだ。
(つづく予定)
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