年末年始はうわのそらたち総括を。
できたらいいななんて。
2011/12/29
2011/12/26
質問
「あなたが自分の思いを他人に深く届けていいと思う根拠は何ですか」
という質問を読んだ。読んだ瞬間、背筋が凍りついた。
深く届いているかどうかはわからないが、
深く届けばいいなと思いながら文章を書いていた。
しかし、「深く届けていいと思う根拠」なんて探してみたけれど何処にもなかった。
書くことが仕事ではないので、「食うために必要だからです」
と言えない僕は、この質問の前で、しばらく途方に暮れるしかなかった。
書くことが少し怖くなった。
というのは昨日の話で、今ではすっかり忘れています。
という質問を読んだ。読んだ瞬間、背筋が凍りついた。
深く届いているかどうかはわからないが、
深く届けばいいなと思いながら文章を書いていた。
しかし、「深く届けていいと思う根拠」なんて探してみたけれど何処にもなかった。
書くことが仕事ではないので、「食うために必要だからです」
と言えない僕は、この質問の前で、しばらく途方に暮れるしかなかった。
書くことが少し怖くなった。
というのは昨日の話で、今ではすっかり忘れています。
ローテーションを考える。
12月23日から31日は行事が目白押しで、プロ野球でいえば日本シリーズくらい華やかです。
この期間を勝ち抜くために、先発投手を考えてみました。
12月23日 斉藤 (初戦はやはり大エース)
24日 桑田 (勝負どころは頼れる桑田)
25日 槇原 (イブほどではないが大事。プレッシャーがないと強い)
26日 宮本 (負けてもいい。中休み)
27日 移動日
28日 斉藤 (もうひと頑張り。エースの踏ん張りに期待)
29日 桑田 (仕事納めは頼れる桑田。まだ気が抜けない)
30日 槇原 (家族や友人とのんびり)
31日 ガルベス(無礼講)
この期間を勝ち抜くために、先発投手を考えてみました。
12月23日 斉藤 (初戦はやはり大エース)
24日 桑田 (勝負どころは頼れる桑田)
25日 槇原 (イブほどではないが大事。プレッシャーがないと強い)
26日 宮本 (負けてもいい。中休み)
27日 移動日
28日 斉藤 (もうひと頑張り。エースの踏ん張りに期待)
29日 桑田 (仕事納めは頼れる桑田。まだ気が抜けない)
30日 槇原 (家族や友人とのんびり)
31日 ガルベス(無礼講)
冬の扇風機
この夏、オフィスの自分の席のすぐそばに扇風機が置かれた。
エアコンの冷気を扇風機で循環させると節電になるそうだ。
その扇風機は今でも回っている。
暖房になっても同じ効果があるらしい。
ただ、そばにいるとやっぱり寒い。
完
エアコンの冷気を扇風機で循環させると節電になるそうだ。
その扇風機は今でも回っている。
暖房になっても同じ効果があるらしい。
ただ、そばにいるとやっぱり寒い。
完
2011/12/25
2011/12/23
あしたのメリークリスマス
やっぱりおじいちゃんがサンタさんなんだ。
パーティーの途中でおじいちゃんがいなくなったことに、トーマスは気づいていました。
おじいちゃんがいなくなったあと、
部屋にプレゼントを持って入ってきたサンタクロースは、
よく見ると、やっぱりおじいちゃんでした。
でも、おじいちゃんががっかりすると思い、トーマスは気がつかない振りをしました。
トーマスは去年までは本当にサンタさんがいると信じていました。
それだけ、おとなになったのです。
トーマスは、本当にサンタクロースがいなかったことがわかって、
すこしさみしくも思いました。
トーマスは、本当にサンタクロースがいなかったことがわかって、
すこしさみしくも思いました。
だけど、トーマスにはまだわからないことがありました。
サンタクロースがプレゼントを置いて部屋から出て行った後も、おじいちゃんは、
明日の朝までずっと帰ってこないのです。
それから、60年。
今度はトーマスがパーティーの途中でいなくなる番です。
孫たちに気がつかれないように、そっと。
そして、トーマスもおじいちゃんと同じように、翌朝まで家に帰ってきません。
なぜ、トーマスは朝まで帰って来ないかって?
だって、世界中の子供たちが待っているからです。
そう、トーマスの本当の名前は、トーマス・トゥエル・ウル・サンタクロース。
今年も、もうすぐ日本にやってきます。
みなさま、メリークリスマス!
2011/12/19
2011/12/17
2011/12/15
「さかなクン」と「にくクン」
「さかなクン」がいて、「にくクン」がいないのはなぜだろう。
きょうは、その理由について考えてみたい。
1.にくクンは、頭に何を乗せるかが難しい。
「さかなクン」の頭部から下は、ほぼ人間である。
「さかなクン」は頭に「さかな」(あれはハコフグ)を乗せている。
チャーミングなあの「さかな」が世代を問わず人気を集める
彼のシンボルとなっている。
「にくクン」も同じようにしたい。
「にく」と言われて、牛、鶏、豚、羊そのものを想像する人は少ないだろう。
おそらく、調理前or調理後の「にく」を想像するはずだ。
そんなものをぺチャッと頭に乗せた人間を「にくクン」と呼べるだろうか。
いや呼べない。強いて言うなら、「焼肉屋で酔いすぎた人」だ。
ごく控えめに言っても、気味が悪い。
2.にくクンは、どのように鳴けばよいのかがわからない。
「さかなクン」は「ギョギョ!」と鳴く。
「にくクン」はどのように鳴けばいいだろうか。
「モウモウ!」はどうか。
これでは全国鶏協同組合、全国豚協同組合、全国羊協同組合から
クレームの電話が殺到してしまうだろう。
「コケコッコー!」「ブヒブヒ!」「メエメエ!」も同様にだめだ。
すべての「にく」に共通している鳴き方。
「ジュウジュウ!」だ。焼かれる音だ。
しかしこれでは、少々残酷すぎやしないだろうか。
それに「ジュウジュウ!」は、焼いて食べるもの全般に共通してしまい
「にくクン」のオリジナリティが失われてしまう。
かと言って無口な「にくクン」は、なんの面白味もない。
3.にくクンは、なんとなくイヤだ。
うん、なんとなくイヤだ。
以上これらの理由(特に3)によって、「にくクン」はいないのだと僕は思う。
いたら本当にごめんなさい。
※おい、「やさいクン」はどうなんだよと思った方へ。
検索してみると「やさいクン」はいます。
何を頭に乗せ、どのように鳴くのかはわかりませんが、
「やさいクンの水耕栽培ブログ」をやっています。
興味のある方はぜひ読んでみてください。
僕は読んでいません。
きょうは、その理由について考えてみたい。
1.にくクンは、頭に何を乗せるかが難しい。
「さかなクン」の頭部から下は、ほぼ人間である。
「さかなクン」は頭に「さかな」(あれはハコフグ)を乗せている。
チャーミングなあの「さかな」が世代を問わず人気を集める
彼のシンボルとなっている。
「にくクン」も同じようにしたい。
「にく」と言われて、牛、鶏、豚、羊そのものを想像する人は少ないだろう。
おそらく、調理前or調理後の「にく」を想像するはずだ。
そんなものをぺチャッと頭に乗せた人間を「にくクン」と呼べるだろうか。
いや呼べない。強いて言うなら、「焼肉屋で酔いすぎた人」だ。
ごく控えめに言っても、気味が悪い。
2.にくクンは、どのように鳴けばよいのかがわからない。
「さかなクン」は「ギョギョ!」と鳴く。
「にくクン」はどのように鳴けばいいだろうか。
「モウモウ!」はどうか。
これでは全国鶏協同組合、全国豚協同組合、全国羊協同組合から
クレームの電話が殺到してしまうだろう。
「コケコッコー!」「ブヒブヒ!」「メエメエ!」も同様にだめだ。
すべての「にく」に共通している鳴き方。
「ジュウジュウ!」だ。焼かれる音だ。
しかしこれでは、少々残酷すぎやしないだろうか。
それに「ジュウジュウ!」は、焼いて食べるもの全般に共通してしまい
「にくクン」のオリジナリティが失われてしまう。
かと言って無口な「にくクン」は、なんの面白味もない。
3.にくクンは、なんとなくイヤだ。
うん、なんとなくイヤだ。
以上これらの理由(特に3)によって、「にくクン」はいないのだと僕は思う。
いたら本当にごめんなさい。
※おい、「やさいクン」はどうなんだよと思った方へ。
検索してみると「やさいクン」はいます。
何を頭に乗せ、どのように鳴くのかはわかりませんが、
「やさいクンの水耕栽培ブログ」をやっています。
興味のある方はぜひ読んでみてください。
僕は読んでいません。
『いかなるときも』
『シュレッダーの詩』
シュレッダーの扉を開けると、
体育座りで温水洋一が座っている。
頭に紙くずを乗せ。
こちらを向いて微笑んでいる。
シュレッダーの扉を開けると、
体育座りで温水洋一が座っている。
頭に紙くずを乗せ。
こちらを向いてウインクしてる。
シュレッダーの扉を開けると、
体育座りで温水洋一が座っている。
御社もきっと~。御社もきっと~。
体育座りの温水洋一が中にいる~。
2011/12/14
2011/12/09
2011/12/08
夢のブレスト
仕事も、立場も、年齢も気にせずに。
社会情勢、可能不可能も考えず。
『夢』を語ろう。
だれかの夢を批判することもなく。
照れることなく、威張りもせず。
つまらくても、真面目でもいい。
うまい言葉、いらない。
オチもいらない。ひととちがう視点を目指さなくていい。
いつもより大胆でもいいし、いつもより弱くてもいい。
目立たなくていいし、目立ってもいい。
熱くていい。ノリわるくていい。なんなら、すごく照れていい。
ただひとつ、夢を語ること。
いっそ、夢という言葉も忘れて、“ようするにそういう感じのもの”を
言えるところ。
言わずに、思う(思い出す)だけでもいい。
そういう場所を、ここに作ろう。
社会情勢、可能不可能も考えず。
『夢』を語ろう。
だれかの夢を批判することもなく。
照れることなく、威張りもせず。
つまらくても、真面目でもいい。
うまい言葉、いらない。
オチもいらない。ひととちがう視点を目指さなくていい。
いつもより大胆でもいいし、いつもより弱くてもいい。
目立たなくていいし、目立ってもいい。
熱くていい。ノリわるくていい。なんなら、すごく照れていい。
ただひとつ、夢を語ること。
いっそ、夢という言葉も忘れて、“ようするにそういう感じのもの”を
言えるところ。
言わずに、思う(思い出す)だけでもいい。
そういう場所を、ここに作ろう。
2011/12/07
2011/12/06
うわのそらたち手帳2012
2011/12/05
仮説
「クリスマスなんて、どうでもいい」
この「なんて」と同じ意味になるように、
「クリスマス」を別の言葉に置き換えて「○○なんて、どうでもいい」という一文を作れ。
と問われたら、一番しっくりくる単語は何だろうか。
「花火大会なんて、どうでもいい」
これも間違いではないと思う。
しかし、いちばんしっくりくる単語を、私は「巨乳」だと考える。
「巨乳なんて、どうでもいい」
Yahoo辞書で「なんて」の意味を調べると次のように書いてある。
なんて「副助詞」
『[副助]《副助詞「など」に格助詞「と」の付いた「などと」の音変化》名詞、名詞に準じる語、活用語の終止形に付く。1 ある事物を例示して、それを軽んじたり、婉曲(えんきょく)に言ったりする意を表す。』
では、上の一文の場合、クリスマスを軽んじているだろうか。
文法上は、確かに軽んじている。
しかしそれを言ったときの主人公は、クリスマスをけっして軽んじていない。
あるのは、「意地」「嫉妬」「羨望」「妄想」「悲壮」「決意」「期待」「友情」「宗教上の理由」と、いったところだろう。
ほかにこれらを全て網羅する言葉があるだろうか。
巨乳以外に私は知らない。
「花火大会なんて、どうでもいい」
前後の文脈があれば、理解できなくもないが、少し、弱い。
そもそも花火と宗教は結びつきにくい。
やはり、「巨乳」だ。
巨乳は信仰だ。
これをクリスマス巨乳説とする。
今年ももうすぐクリスマスがやってくる。
皆さまに幸せなクリスマスが訪れますように。
もちろん、巨乳と言い換えてもらっても構わない。
この「なんて」と同じ意味になるように、
「クリスマス」を別の言葉に置き換えて「○○なんて、どうでもいい」という一文を作れ。
と問われたら、一番しっくりくる単語は何だろうか。
「花火大会なんて、どうでもいい」
これも間違いではないと思う。
しかし、いちばんしっくりくる単語を、私は「巨乳」だと考える。
「巨乳なんて、どうでもいい」
Yahoo辞書で「なんて」の意味を調べると次のように書いてある。
なんて「副助詞」
『[副助]《副助詞「など」に格助詞「と」の付いた「などと」の音変化》名詞、名詞に準じる語、活用語の終止形に付く。1 ある事物を例示して、それを軽んじたり、婉曲(えんきょく)に言ったりする意を表す。』
では、上の一文の場合、クリスマスを軽んじているだろうか。
文法上は、確かに軽んじている。
しかしそれを言ったときの主人公は、クリスマスをけっして軽んじていない。
あるのは、「意地」「嫉妬」「羨望」「妄想」「悲壮」「決意」「期待」「友情」「宗教上の理由」と、いったところだろう。
ほかにこれらを全て網羅する言葉があるだろうか。
巨乳以外に私は知らない。
「花火大会なんて、どうでもいい」
前後の文脈があれば、理解できなくもないが、少し、弱い。
そもそも花火と宗教は結びつきにくい。
やはり、「巨乳」だ。
巨乳は信仰だ。
これをクリスマス巨乳説とする。
今年ももうすぐクリスマスがやってくる。
皆さまに幸せなクリスマスが訪れますように。
もちろん、巨乳と言い換えてもらっても構わない。
おもいつき短歌
こんばんはFBIの山田です今日は醤油を借りに来ました
こんばんはCAIの山田です今日は砂糖を借りに来ました
こんばんはKGBの山田です今日はみりんを借りに来ました
こんばんはNASA広報課山田です今日はチャツネを借りに来ました
こんばんはほんとはただの山田です今日はあなたを借りに来ました
こんばんはCAIの山田です今日は砂糖を借りに来ました
こんばんはKGBの山田です今日はみりんを借りに来ました
こんばんはNASA広報課山田です今日はチャツネを借りに来ました
こんばんはほんとはただの山田です今日はあなたを借りに来ました
『いかなるときも』
『しょっつる』
男鹿半島のしょっつるは、はたはただけで作られているそうです。
なにに使っても、おいしい。
会社に持っていって、いつもの弁当のおかずにかけようかな。
それを見たOLたちが、「なにこれー」、「かわいいー」
「超しょっつるー」、「先輩、いっしょに食べません?」
ってことになるかもしれない。
いや、ならない。
2011/12/04
2011/12/03
2011/12/02
『いかなるときも』
『本日開店』
家のすぐ近くにスーパーがオープンしました。
今まで、歩いて10分くらいかかる場所にしかなかったから、うれしい。
これで自炊をするようになるかも。
いや、しなければならない。
自炊が無理でも、
せめて、お惣菜コーナーのアジフライでも買って、
家で飲もう。
ホッピーも置いてあれば、なお良い。
と、こんなところでよろしいでしょうか?
2011/12/01
山田は常に死んでいる
目の前で山田優子が白い車に跳ね飛ばされたとき、僕は言葉を失った。
その日僕らは夕方の公園にいて、2人でボール蹴りをしていた。
僕が蹴ったボールは、当たり前のように山田の頭上を越え、
当たり前のように公園を飛び出して、当たり前のように道路に着地した。
そして当たり前のようにボールを拾いに行った山田は、
当たり前のように道路に飛び出して、当たり前のように白い車に跳ね飛ばされた。
回転する山田。後方かかえ込み2回宙返り3回ひねり。
難易度Gの技を繰り出しながら山田は電柱に激突し、
ボールと同じように道路に着地した。
白い車は一瞬沈黙したが、当たり前のようにその場から走り去った。
すべてがスローモーションに見えた。音のない世界。
山田が死んだ。山田が死んだ。山田が死んだ。
よくありがちな事故で山田が死んだ。
その言葉を脳内で反芻しながら、叫ぶこともできずに、
僕は山田のもとへと駆け寄り、キスをした。ファーストキスだった。
TVドラマから集めた情報を総動員した結果、
キスをすれば、山田がごふっと言いながら水を吐き、息を吹き返すと思っていた。
山田は水を吐かなかったし、息も吹き返さなかった。溺れたわけではないからだ。
ひどく混乱していた僕は、次に心臓マッサージを開始した。
これもTVドラマから集めた情報を総動員した結果だ。
山田の体は既に象形文字のようにぐにゃりと曲がっていたが、
心臓マッサージさえすれば、もと通りになると思っていた。
しかし山田は曲がったままだった。僕は山田の前ではじめて泣いた。
するとTVドラマみたいに山田がうっすらと目を開けた。
「山田、しっかりしろ!山田、水を吐け!もと通りになれ!」と僕は叫んでいた。
山田は口をパクパクさせていた。耳を近づけなければ聞こえないほどの声だ。
「み、みんなには、内緒ね。」山田はそう言って、目を閉じ、死んだ。
TVドラマみたいに、頭をがくんとやって死んだから、
これは確実に死んだんだなと思うと、また泣けてきた。
みんなには内緒な?僕がやるべきことは、救急車を呼ぶでもなく、
山田の母親を呼びに行くでもなく、白い車を追いかけるでもなく、
みんなに内緒にしておくことなのか?どうなんだ山田。
山田は答えない。山田は死んでしまったのだ。
山田の最期の言葉を、僕は守ることにした。
山田が死んでしまったことを、みんなには内緒にしておくこと。
僕は山田を、山田の死体を背負った。軽かった。悲しいほどに軽すぎた。
背中に山田の胸のふくらみを感じながら、僕は静かに歩き始めた。
(つづく予定)
その日僕らは夕方の公園にいて、2人でボール蹴りをしていた。
僕が蹴ったボールは、当たり前のように山田の頭上を越え、
当たり前のように公園を飛び出して、当たり前のように道路に着地した。
そして当たり前のようにボールを拾いに行った山田は、
当たり前のように道路に飛び出して、当たり前のように白い車に跳ね飛ばされた。
回転する山田。後方かかえ込み2回宙返り3回ひねり。
難易度Gの技を繰り出しながら山田は電柱に激突し、
ボールと同じように道路に着地した。
白い車は一瞬沈黙したが、当たり前のようにその場から走り去った。
すべてがスローモーションに見えた。音のない世界。
山田が死んだ。山田が死んだ。山田が死んだ。
よくありがちな事故で山田が死んだ。
その言葉を脳内で反芻しながら、叫ぶこともできずに、
僕は山田のもとへと駆け寄り、キスをした。ファーストキスだった。
TVドラマから集めた情報を総動員した結果、
キスをすれば、山田がごふっと言いながら水を吐き、息を吹き返すと思っていた。
山田は水を吐かなかったし、息も吹き返さなかった。溺れたわけではないからだ。
ひどく混乱していた僕は、次に心臓マッサージを開始した。
これもTVドラマから集めた情報を総動員した結果だ。
山田の体は既に象形文字のようにぐにゃりと曲がっていたが、
心臓マッサージさえすれば、もと通りになると思っていた。
しかし山田は曲がったままだった。僕は山田の前ではじめて泣いた。
するとTVドラマみたいに山田がうっすらと目を開けた。
「山田、しっかりしろ!山田、水を吐け!もと通りになれ!」と僕は叫んでいた。
山田は口をパクパクさせていた。耳を近づけなければ聞こえないほどの声だ。
「み、みんなには、内緒ね。」山田はそう言って、目を閉じ、死んだ。
TVドラマみたいに、頭をがくんとやって死んだから、
これは確実に死んだんだなと思うと、また泣けてきた。
みんなには内緒な?僕がやるべきことは、救急車を呼ぶでもなく、
山田の母親を呼びに行くでもなく、白い車を追いかけるでもなく、
みんなに内緒にしておくことなのか?どうなんだ山田。
山田は答えない。山田は死んでしまったのだ。
山田の最期の言葉を、僕は守ることにした。
山田が死んでしまったことを、みんなには内緒にしておくこと。
僕は山田を、山田の死体を背負った。軽かった。悲しいほどに軽すぎた。
背中に山田の胸のふくらみを感じながら、僕は静かに歩き始めた。
(つづく予定)
2011/11/29
2011/11/28
2011/11/26
有限個のあなたによる変換
この文章を液晶画面越しにあなたが読んでいる、
あるいは読んでいなくとも見ているのであれば、やはり
我々「うわのそらたち」の試みは成功しているということになる。
これまで我々「うわのそらたち」は限りある能力で限りある物語を苦心しながらも
ぽつぽつとこのブログに書いてきた。ようにあなたには見えているはずだ。
しかし種明かしをすれば、長短の差こそあれ、我々はただキーボードの
!(エクスクラメーションマーク)を投稿欄に連打しているだけなのである。
つまりこの文章の本来の姿は、
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!
ということになる。
このサイトには入力された!の羅列を、あなたがサイトを開いた瞬間、
あなたが読みたいと思った文章に変換する仕掛けが施されている。
もちろん、あなたが読みたい文章とあなたの友人が読みたい文章は
(偶然一致する場合を除いて)違う。
同じサイトを開いていても、あなたが読んでいる文章と
あなたの友人が読んでいる文章は(偶然一致する場合を除いて)違う。
つまり、ある人はミステリーを、ある人はファンタジーを、ある人はノンフィクションを、
ある人はだれかの人生相談を読んでいるということになる。
変換には1回性があり、1度変換された!はそれ以降変換されない。
なぜそのようなことをしているのか。理由は至極簡単だ。
1.あなたが何を読みたいと思っているのかがさっぱりわからない。
2.でもわざわざこのサイトを訪れていただいたからには、
あなたが読みたいと思うものを読んでほしい。
と我々「うわのそらたち」は望むからである。
だからこのブログを本当の意味において書いているのは、
我々「うわのそらたち」ではなく、あなた自身だと言えるかもしれない。
これでこのブログについての種明かしはおしまいである。
ところで、なぜ今になって種明かしをしてしまったのか。
それはすこし傲慢な言い方にはなるが、今このサイトを開いた
あなたがこのブログについての種明かしを読みたいと思ったからである。
最後に書いておきたいことがある。
(もちろんこれもあなたが読みたいと思ったことなのだが)
このような仕掛けを簡単に施すことができる世の中で、あなたが今
見ているもの(視覚によって変換される!かもしれない)、
触れているもの(触角によって変換される!かもしれない)、
聞いているもの(聴覚によって変換される!かもしれない)、
嗅いでいるもの(嗅覚によって変換される!かもしれない)、
味わっているもの(味覚によって変換される!かもしれない)、
すべてが、あるいはいずれかが!で構成されていても
まったく不思議ではないということだ。
あるいは読んでいなくとも見ているのであれば、やはり
我々「うわのそらたち」の試みは成功しているということになる。
これまで我々「うわのそらたち」は限りある能力で限りある物語を苦心しながらも
ぽつぽつとこのブログに書いてきた。ようにあなたには見えているはずだ。
しかし種明かしをすれば、長短の差こそあれ、我々はただキーボードの
!(エクスクラメーションマーク)を投稿欄に連打しているだけなのである。
つまりこの文章の本来の姿は、
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!
ということになる。
このサイトには入力された!の羅列を、あなたがサイトを開いた瞬間、
あなたが読みたいと思った文章に変換する仕掛けが施されている。
もちろん、あなたが読みたい文章とあなたの友人が読みたい文章は
(偶然一致する場合を除いて)違う。
同じサイトを開いていても、あなたが読んでいる文章と
あなたの友人が読んでいる文章は(偶然一致する場合を除いて)違う。
つまり、ある人はミステリーを、ある人はファンタジーを、ある人はノンフィクションを、
ある人はだれかの人生相談を読んでいるということになる。
変換には1回性があり、1度変換された!はそれ以降変換されない。
なぜそのようなことをしているのか。理由は至極簡単だ。
1.あなたが何を読みたいと思っているのかがさっぱりわからない。
2.でもわざわざこのサイトを訪れていただいたからには、
あなたが読みたいと思うものを読んでほしい。
と我々「うわのそらたち」は望むからである。
だからこのブログを本当の意味において書いているのは、
我々「うわのそらたち」ではなく、あなた自身だと言えるかもしれない。
これでこのブログについての種明かしはおしまいである。
ところで、なぜ今になって種明かしをしてしまったのか。
それはすこし傲慢な言い方にはなるが、今このサイトを開いた
あなたがこのブログについての種明かしを読みたいと思ったからである。
最後に書いておきたいことがある。
(もちろんこれもあなたが読みたいと思ったことなのだが)
このような仕掛けを簡単に施すことができる世の中で、あなたが今
見ているもの(視覚によって変換される!かもしれない)、
触れているもの(触角によって変換される!かもしれない)、
聞いているもの(聴覚によって変換される!かもしれない)、
嗅いでいるもの(嗅覚によって変換される!かもしれない)、
味わっているもの(味覚によって変換される!かもしれない)、
すべてが、あるいはいずれかが!で構成されていても
まったく不思議ではないということだ。
2011/11/25
2011/11/24
2011/11/23
犬と喧嘩した話
ベルという犬を飼っていた。
小2のときだ。
給食で残してきたパンをストーブの上で焼いていた。
焼きあがるのを楽しみにしていた。
なのに、ベルが飛び上がってそのパンを食べた。
ベルと喧嘩した。
大人げなかった。
小2だから仕方ない。
小2のときだ。
給食で残してきたパンをストーブの上で焼いていた。
焼きあがるのを楽しみにしていた。
なのに、ベルが飛び上がってそのパンを食べた。
ベルと喧嘩した。
大人げなかった。
小2だから仕方ない。
2011/11/22
スター☆
星のこと考えるとわくわくする。
小学生のころから天体望遠鏡が欲しいと思ってる。
でも買ったらきっとすぐ飽きるから、買わない。
買わなければ、ずっと欲しいと思っていられる。
片思いなら、ずっと好きでいられる☆
小学生のころから天体望遠鏡が欲しいと思ってる。
でも買ったらきっとすぐ飽きるから、買わない。
買わなければ、ずっと欲しいと思っていられる。
片思いなら、ずっと好きでいられる☆
2011/11/21
定型は守ってくれない
短歌の定型は5・7・5・7・7だ。
僕は定型を破ることができない。
字余り、字足らず、破調は恐怖以外のなにものでもない。
冬眠から目覚めたばかりのシマリスのように臆病なのだ。
俳句の定型は5・7・5だ。
しかし僕は自由律俳句しか詠んだことがない。
はじめて読んだ俳句の本が「尾崎放哉全句集」だったからだろうか。
その後、「カキフライがないなら来なかった」や「まさかジープで来るとは」を読んで、
俳句の場合は、自由律=僕の定型ということになった。
やっぱり僕は定型を破ることができない。
草陰からライオンの食事を見守るハイエナのように臆病なのだ。
しくしく。
僕は定型を破ることができない。
字余り、字足らず、破調は恐怖以外のなにものでもない。
冬眠から目覚めたばかりのシマリスのように臆病なのだ。
俳句の定型は5・7・5だ。
しかし僕は自由律俳句しか詠んだことがない。
はじめて読んだ俳句の本が「尾崎放哉全句集」だったからだろうか。
その後、「カキフライがないなら来なかった」や「まさかジープで来るとは」を読んで、
俳句の場合は、自由律=僕の定型ということになった。
やっぱり僕は定型を破ることができない。
草陰からライオンの食事を見守るハイエナのように臆病なのだ。
しくしく。
『いかなるときも』
『ちりも積もれば』
ペットボトルのキャップを集めるとポリオワクチンを送れるやつ。
こんなことするより、もっと効率よく寄付できる方法があるとか、
いろいろ言われてる。
けど、そういうこととはべつに、ひとが少しでも何かを感じる
ことができる装置としてはいいんじゃないかと思う。
2011/11/18
2011/11/17
2011/11/16
2011/11/15
2011/11/14
2011/11/13
2011/11/12
botを作ってみよう(2)
はじめは、いいね!botを作ろうと思った。
「いいね!↓ 」とつぶやくbot。
しかし、下のツイートがあまりよくない話で「いいね!↓」は不謹慎だと思い考え直した。
そこで、相づち(非公式)bot(aizuchikun)にした。
これなら、大丈夫。
フォローワーは、いまのところ4人。
5人目は、あなたかも知れない。
「いいね!↓ 」とつぶやくbot。
しかし、下のツイートがあまりよくない話で「いいね!↓」は不謹慎だと思い考え直した。
そこで、相づち(非公式)bot(aizuchikun)にした。
これなら、大丈夫。
フォローワーは、いまのところ4人。
5人目は、あなたかも知れない。
2011/11/11
2011/11/10
写真日記『いかなるときも』
『昨日の雲』
うろこ雲でしたね。
ところで、積乱雲をちゃんと「せきらんうん」と覚えていなかったことに、
いま気がつきました。
せきらうん?くらいに思っていたけど、
漢字変換できないから調べてみたら「せきらんうん」でした。
まあ、漢字を見ればそのままですが。
ところでところで、赤裸々な告白はまたの機会に。
2011/11/09
写真日記『いかなるときも』
『いつも1杯だけのつもり』
今週は禁酒週にしようと思っていたのだけど、
誘われて会社のひとと飲んでしまった。
1杯だけのつもりが、けっきょく3杯。
禁酒週にしようと思ったタイミングに限って
誘ってくるひとがいる。
ありがたいことです。
漢字カンジかんじ
美味しい生活。(おいしい生活。)
お尻だって、洗ってほしい。(おしりだって、洗ってほしい。)
去年の服では、恋もできない。(きょ年の服では、恋もできない。)
心と体、人間の全部 (ココロとカラダ、にんげんのぜんぶ)
江成 和己 (えなりかずき)
角田☆博 (つのだ☆ひろ)
痔 (ぢ)
お尻だって、洗ってほしい。(おしりだって、洗ってほしい。)
去年の服では、恋もできない。(きょ年の服では、恋もできない。)
心と体、人間の全部 (ココロとカラダ、にんげんのぜんぶ)
江成 和己 (えなりかずき)
角田☆博 (つのだ☆ひろ)
痔 (ぢ)
写真日記『いかなるときも』
『エレベーター』
今朝もこのビルのエレベーターは時間がかかった。
みんなイライラしている。
でも、時間を計ってみると、
1階から会社まで2分くらいで着いているんだよね。
べつにそんなに行きたい場所でもないのに、
たった2分でイライラするのはやめようと思う。
カップヌードルだって、まだ硬いよ。
2011/11/08
写真日記『いかなるときも』
『秋の深まり』
もう11月ですね。
お正月におみくじを引いて、ああだこうだ言ってたのが
ついこのあいだのような気がします。
ここからさらに速くなるのが、1年です。
振り落とされないようについていきましょう。
潜在意識くん
1つの事柄について考えてみる。
ぜんぜんいいこと思いつかない。
ほったらかす。
1週間後、ふと思い出して考えてみる。
前回は考えもつかなかったことが出てくる。
こういうことって確かにある。
これを意識的に利用しない手はない。
どこで利用するかは、考え中なう。
ぜんぜんいいこと思いつかない。
ほったらかす。
1週間後、ふと思い出して考えてみる。
前回は考えもつかなかったことが出てくる。
こういうことって確かにある。
これを意識的に利用しない手はない。
どこで利用するかは、考え中なう。
2011/11/07
botを作ってみよう!(1)
テトリス非公式bot(tetritter)を作ってみた。
自分で作ったにも関わらず1日でフォローを解除した。
つまらなかったからだ。
つまらないどころか、ムカついてきた。
そもそもテトリスが特別好きなわけでも、得意なわけでもない。
こうして、愛のないbotは作成者からも見捨てられ、ツイッターをさまようゴミとなる。
つぎは、好きなものをbotにしたいと思う。
自分で作ったにも関わらず1日でフォローを解除した。
つまらなかったからだ。
つまらないどころか、ムカついてきた。
そもそもテトリスが特別好きなわけでも、得意なわけでもない。
こうして、愛のないbotは作成者からも見捨てられ、ツイッターをさまようゴミとなる。
つぎは、好きなものをbotにしたいと思う。
2011/11/06
2011/11/03
2011/11/02
2011/11/01
2011/10/27
2011/10/23
2011/10/19
2011/10/18
2011/10/11
2011/10/01
2011/09/26
2011/09/21
2011/09/19
2011/09/14
2011/09/09
2011/09/08
2011/09/07
2011/09/04
2011/08/31
2011/08/30
自動的15秒間
ピトっと押すとストンと落ちてジョボジョボと注がれる式の自動販売機の前で
珈琲が出来上がるまでプラスチック製の小さな黒い扉をじっと見ながら待っていると、
となりの自動販売機の前で同じように待っていた女性が
「ごくろうさま」と小さな声で言った。
それを聞いて、ああ、この女性は自動ドアや自動で流れるトイレや
全自動洗濯機やATMやエスカレーターやエレベーターにも
ねぎらいの言葉をかけているやさしい人なんだろうな、
日本の女性は美しいな、と思いながら黙ってその場を立ち去ったのだけれど
あれは僕に対して言った言葉だったのではなかろうか
もしそうだとしたら僕はあっさりとひどいことをしてしまったとともに、
ラブストーリーの序章を踏み潰してしまったのではなかろうかと今更気が付き
おちこんだりもしたけれど、僕はげんきです。
珈琲が出来上がるまでプラスチック製の小さな黒い扉をじっと見ながら待っていると、
となりの自動販売機の前で同じように待っていた女性が
「ごくろうさま」と小さな声で言った。
それを聞いて、ああ、この女性は自動ドアや自動で流れるトイレや
全自動洗濯機やATMやエスカレーターやエレベーターにも
ねぎらいの言葉をかけているやさしい人なんだろうな、
日本の女性は美しいな、と思いながら黙ってその場を立ち去ったのだけれど
あれは僕に対して言った言葉だったのではなかろうか
もしそうだとしたら僕はあっさりとひどいことをしてしまったとともに、
ラブストーリーの序章を踏み潰してしまったのではなかろうかと今更気が付き
おちこんだりもしたけれど、僕はげんきです。
2011/08/26
2011/08/25
2011/08/22
2011/08/20
服を捨てる日
前日に着ていた服を当日の朝、
燃えるゴミとして処分するのが引っ越しの際の恒例行事だ。
洗濯する時間もないし、汚れた服を新居に持っていくのも
なんだかなぁと思って毎回捨てているのだけれど、その度に罪の意識が芽生える。
その光景を見ていた人に指をさされ「MOTTAINAI!」と叫ばれたりしたら、
僕はひたすら謝ることしかできないと思う。
もちろん後悔するし、その服がなくて困ったことにもなる。
じゃあそんなことやめたらいいじゃないか、とあなたは言うかもしれない。
僕だってやめたい。でも引っ越しの時期はまたいずれやって来るだろうし、
引っ越しの前日を全裸で過ごすことはできない。
前日に着ていた服というのは必ず生まれる。毎日生まれている。
邪魔になるのは引っ越しの当日だけだ。
だからまた僕は前日に着ていた服を捨てることになるだろうと思う。
大変申し訳ないとは思うのだが、服には我慢をしてほしい。
その日までは服を大切にすると誓う。
それにこういうことを言うと怒られそうだけど、
脱いだ服をそのまま捨てるという行為はなんとなく気持ちがいいものなのだ。
燃えるゴミとして処分するのが引っ越しの際の恒例行事だ。
洗濯する時間もないし、汚れた服を新居に持っていくのも
なんだかなぁと思って毎回捨てているのだけれど、その度に罪の意識が芽生える。
その光景を見ていた人に指をさされ「MOTTAINAI!」と叫ばれたりしたら、
僕はひたすら謝ることしかできないと思う。
もちろん後悔するし、その服がなくて困ったことにもなる。
じゃあそんなことやめたらいいじゃないか、とあなたは言うかもしれない。
僕だってやめたい。でも引っ越しの時期はまたいずれやって来るだろうし、
引っ越しの前日を全裸で過ごすことはできない。
前日に着ていた服というのは必ず生まれる。毎日生まれている。
邪魔になるのは引っ越しの当日だけだ。
だからまた僕は前日に着ていた服を捨てることになるだろうと思う。
大変申し訳ないとは思うのだが、服には我慢をしてほしい。
その日までは服を大切にすると誓う。
それにこういうことを言うと怒られそうだけど、
脱いだ服をそのまま捨てるという行為はなんとなく気持ちがいいものなのだ。
2011/08/19
2011/08/14
2011/07/31
2011/07/28
タイムマシンの話をしようか
1895年にハーバード・ジョージ・ウェルズが著書『タイム・マシン』を発表し、
タイムマシンという概念を広めてから現代に至るまでの間に僕たちは
タイムマシンってこんな乗り物だよな(ドラえもんのあれだよな)
という固定観念というか共通イメージを植え付けられているような気がする。
10人集めてタイムマシンを描いてもらったらだいたい同じような絵になるだろう。
だからいつかパラドックスや並行宇宙の障害を乗り越えて
現代にやってくるであろうタイムマシンは、
タイムマシンらしからぬへんてこりんな形をしているのではないかと思う。
「ああ、これはタイムマシンですね」とだれもが理解できるような形の
乗り物に乗ってきたら、奪われて悪用されかねないからだ。
未来人も未来人らしからぬ服装をしているのではないかと思う。
「ああ、あなたが未来人ですね」とだれもが理解できる服装だと
面倒くさいことになって任務に支障をきたすことになりかねないからだ。
例えば、未来人は、わかめみたいなぺらっぺらのシートに乗って
ちょっとした時代錯誤により大日本帝国陸軍の軍服を着用して
ビュワーーンと現代にやって来るかもしれない。
もしその未来人を聖路加タワーの展望台から見つけたとしても
僕は見なかったふりをして、そっとしておいてあげようと思う。
なぜならばタイムトラベルには規制があり、
未来人は未来の政府かそれに準ずる機関の指示や許可を得て
現代に来ているはずであるし、未来の人々が過去を変えて良しと判断したなら
ああだこうだ文句は言えないからだ。黙って受け入れるしかない。
それに興味本位で話しかけたその未来人が僕の遠い子孫で
「全部お前のせいだからな!」
と罵倒されるようなことがあったら死ぬまで立ち直れそうにないからね。
タイムマシンという概念を広めてから現代に至るまでの間に僕たちは
タイムマシンってこんな乗り物だよな(ドラえもんのあれだよな)
という固定観念というか共通イメージを植え付けられているような気がする。
10人集めてタイムマシンを描いてもらったらだいたい同じような絵になるだろう。
だからいつかパラドックスや並行宇宙の障害を乗り越えて
現代にやってくるであろうタイムマシンは、
タイムマシンらしからぬへんてこりんな形をしているのではないかと思う。
「ああ、これはタイムマシンですね」とだれもが理解できるような形の
乗り物に乗ってきたら、奪われて悪用されかねないからだ。
未来人も未来人らしからぬ服装をしているのではないかと思う。
「ああ、あなたが未来人ですね」とだれもが理解できる服装だと
面倒くさいことになって任務に支障をきたすことになりかねないからだ。
例えば、未来人は、わかめみたいなぺらっぺらのシートに乗って
ちょっとした時代錯誤により大日本帝国陸軍の軍服を着用して
ビュワーーンと現代にやって来るかもしれない。
もしその未来人を聖路加タワーの展望台から見つけたとしても
僕は見なかったふりをして、そっとしておいてあげようと思う。
なぜならばタイムトラベルには規制があり、
未来人は未来の政府かそれに準ずる機関の指示や許可を得て
現代に来ているはずであるし、未来の人々が過去を変えて良しと判断したなら
ああだこうだ文句は言えないからだ。黙って受け入れるしかない。
それに興味本位で話しかけたその未来人が僕の遠い子孫で
「全部お前のせいだからな!」
と罵倒されるようなことがあったら死ぬまで立ち直れそうにないからね。
2011/07/26
火星のニュース
火星国国営通信のオリンポス社は、29日、午前、
地球で起きた事故による死者は69億5350万人にのぼったと伝えた。
死者のうち100万人は異星人としているが、
火星国総領事館が地球政府から得た情報によると
死者の中に火星人はいない。
地球で起きた事故による死者は69億5350万人にのぼったと伝えた。
死者のうち100万人は異星人としているが、
火星国総領事館が地球政府から得た情報によると
死者の中に火星人はいない。
2011/07/22
その話はもう4回聞いた
最初の銃声が空気を震わせさえすれば雪崩のように戦争が始まり、
最初の水滴が地面を濡らしさえすればマシンガンのように雨が降り始める。
最初の銃声、最初の水滴は、小説で言えば最初の一行だ。
ホテルの一室で小説家は狙撃手のように忍耐強く最初の一行を待った。
失敗すればインクの染みによる原稿用紙の大量消費だと罵られ、
日本製紙連合会か環境保護団体に訴えられてしまうかもしれない。
悩んだ末に彼はこう書き始めた。
最初の銃声が空気を震わせさえすれば雪崩のように戦争が始まり、
最初の水滴が地面を濡らしさえすればマシンガンのように雨が降り始める。
最初の銃声、最初の水滴は、小説で言えば最初の一行だ。
ホテルの一室で小説家は狙撃手のように忍耐強く最初の一行を待った。
失敗すればインクの染みによる原稿用紙の大量消費だと罵られ、
日本製紙連合会か環境保護団体に訴えられてしまうかもしれない。
悩んだ末に彼はこう書き始めた。
最初の銃声が空気を震わせさえすれば雪崩のように戦争が始まり、
最初の水滴が地面を濡らしさえすればマシンガンのように雨が降り始める。
最初の銃声、最初の水滴は、小説で言えば最初の一行だ。
ホテルの一室で小説家は狙撃手のように忍耐強く最初の一行を待った。
失敗すればインクの染みによる原稿用紙の大量消費だと罵られ、
日本製紙連合会か環境保護団体に訴えられてしまうかもしれない。
悩んだ末に彼はこう書き始めた。
最初の銃声が空気を震わせさえすれば雪崩のように戦争が始まり、
最初の水滴が地面を濡らしさえすればマシンガンのように雨が降り始める。
最初の銃声、最初の水滴は、小説で言えば最初の一行だ。
ホテルの一室で小説家は狙撃手のように忍耐強く最初の一行を待った。
失敗すればインクの染みによる原稿用紙の大量消費だと罵られ、
日本製紙連合会か環境保護団体に訴えられてしまうかもしれない。
悩んだ末に彼はこう書き始めた。
(以下同文、適当にくり返し終了)
最初の水滴が地面を濡らしさえすればマシンガンのように雨が降り始める。
最初の銃声、最初の水滴は、小説で言えば最初の一行だ。
ホテルの一室で小説家は狙撃手のように忍耐強く最初の一行を待った。
失敗すればインクの染みによる原稿用紙の大量消費だと罵られ、
日本製紙連合会か環境保護団体に訴えられてしまうかもしれない。
悩んだ末に彼はこう書き始めた。
最初の銃声が空気を震わせさえすれば雪崩のように戦争が始まり、
最初の水滴が地面を濡らしさえすればマシンガンのように雨が降り始める。
最初の銃声、最初の水滴は、小説で言えば最初の一行だ。
ホテルの一室で小説家は狙撃手のように忍耐強く最初の一行を待った。
失敗すればインクの染みによる原稿用紙の大量消費だと罵られ、
日本製紙連合会か環境保護団体に訴えられてしまうかもしれない。
悩んだ末に彼はこう書き始めた。
最初の銃声が空気を震わせさえすれば雪崩のように戦争が始まり、
最初の水滴が地面を濡らしさえすればマシンガンのように雨が降り始める。
最初の銃声、最初の水滴は、小説で言えば最初の一行だ。
ホテルの一室で小説家は狙撃手のように忍耐強く最初の一行を待った。
失敗すればインクの染みによる原稿用紙の大量消費だと罵られ、
日本製紙連合会か環境保護団体に訴えられてしまうかもしれない。
悩んだ末に彼はこう書き始めた。
最初の銃声が空気を震わせさえすれば雪崩のように戦争が始まり、
最初の水滴が地面を濡らしさえすればマシンガンのように雨が降り始める。
最初の銃声、最初の水滴は、小説で言えば最初の一行だ。
ホテルの一室で小説家は狙撃手のように忍耐強く最初の一行を待った。
失敗すればインクの染みによる原稿用紙の大量消費だと罵られ、
日本製紙連合会か環境保護団体に訴えられてしまうかもしれない。
悩んだ末に彼はこう書き始めた。
(以下同文、適当にくり返し終了)
2011/07/21
2011/07/20
答えてくれると思うんじゃな
いつから哀しくなくなりますか
双子がいます
ひとりが死にます
哀しいでしょう
三つ子がいます
ひとりが死にます
哀しいでしょう
四つ子、五つ子、六つ子、七つ子
いつから哀しくなくなりますか
質問を変えましょう
いつからか哀しくなることなんてあるのでしょうか
いつから嬉しくなくなりますか
二人をつくりました
嬉しかったでしょう
三人をつくりました
嬉しかったでしょう
四人、五人、六人、七人
いつから嬉しくなくなりますか
質問を変えましょう
いつからか嬉しくなくなることなんてあるのでしょうか
ところでいつからそんなに怒ってますか、かみさま
双子がいます
ひとりが死にます
哀しいでしょう
三つ子がいます
ひとりが死にます
哀しいでしょう
四つ子、五つ子、六つ子、七つ子
いつから哀しくなくなりますか
質問を変えましょう
いつからか哀しくなることなんてあるのでしょうか
いつから嬉しくなくなりますか
二人をつくりました
嬉しかったでしょう
三人をつくりました
嬉しかったでしょう
四人、五人、六人、七人
いつから嬉しくなくなりますか
質問を変えましょう
いつからか嬉しくなくなることなんてあるのでしょうか
ところでいつからそんなに怒ってますか、かみさま
2011/07/19
国民皆探偵物語
とある王国に心配性な王様がいた。
王様はある男Aの監視を探偵Bに依頼した。
心配性な王様は心配性であるがゆえに探偵Bの監視を探偵Cに依頼した。
もう御分かりのとおりCの監視はDに、Dの監視はEに、Eの監視はFに依頼された。
しかしこの王国にはそんなにたくさん探偵がいるわけではない。
それでも王様はあきらめない。
王族、親衛隊、貴族、学者、農民、牧師などを手当たり次第に探偵として雇い、監視させ、
とうとうその王国に住むすべての人間を探偵として雇いつくしてしまった。
そしてついには最初の男Aをも探偵として雇い、
最後に探偵として雇った人物の監視をさせることにした。
こうしてだれかの監視をしている者はだれかに監視されているという構図が出来上がった。
王様のもとには毎月大量の調査報告書が届いた。
その内容は要約すればほぼ同じであった。「調査対象はある人物の監視をしている。」
みんなだれかの背中を見ていて、みんなだれかに背中を見られていた。
王様は困った。国民皆探偵。それを雇っているのは王様で、王様の財産は尽きかけていた。
そこで王様はひらめいた。私が探偵になろう。私がAの監視をすればいいのだ。
王様は王様をあっさりと辞めてしまった。
そしてすべての探偵に解雇通知を送りつけ、その国で唯一の探偵となった。
後にこの元王様の名前は、探偵シャーロック・ホームズとして世に知れ渡ることになる。
ちなみにホームズを監視するため、だれかに雇われた探偵がワトソン君だ。
探偵を解雇され、職を失った全国民は当たり前のように犯罪発生率を上昇させ、
当たり前のようにたくさんの活躍の場をホームズに与えたんだとさ。
という嘘を来年のエイプリルフールにつこうと思っている。
王様はある男Aの監視を探偵Bに依頼した。
心配性な王様は心配性であるがゆえに探偵Bの監視を探偵Cに依頼した。
もう御分かりのとおりCの監視はDに、Dの監視はEに、Eの監視はFに依頼された。
しかしこの王国にはそんなにたくさん探偵がいるわけではない。
それでも王様はあきらめない。
王族、親衛隊、貴族、学者、農民、牧師などを手当たり次第に探偵として雇い、監視させ、
とうとうその王国に住むすべての人間を探偵として雇いつくしてしまった。
そしてついには最初の男Aをも探偵として雇い、
最後に探偵として雇った人物の監視をさせることにした。
こうしてだれかの監視をしている者はだれかに監視されているという構図が出来上がった。
王様のもとには毎月大量の調査報告書が届いた。
その内容は要約すればほぼ同じであった。「調査対象はある人物の監視をしている。」
みんなだれかの背中を見ていて、みんなだれかに背中を見られていた。
王様は困った。国民皆探偵。それを雇っているのは王様で、王様の財産は尽きかけていた。
そこで王様はひらめいた。私が探偵になろう。私がAの監視をすればいいのだ。
王様は王様をあっさりと辞めてしまった。
そしてすべての探偵に解雇通知を送りつけ、その国で唯一の探偵となった。
後にこの元王様の名前は、探偵シャーロック・ホームズとして世に知れ渡ることになる。
ちなみにホームズを監視するため、だれかに雇われた探偵がワトソン君だ。
探偵を解雇され、職を失った全国民は当たり前のように犯罪発生率を上昇させ、
当たり前のようにたくさんの活躍の場をホームズに与えたんだとさ。
という嘘を来年のエイプリルフールにつこうと思っている。
隅田川
色:みどり
水:やや多い
波:ゆったりと
天気:小雨
ひとこと:台風が近づいているようだけど、隅田川はいつもとあまり変わりません。
嵐の前の静けさでしょうか。
ところで、この「嵐の前の静けさ」という現象がなぜ起こるかご存知ですか?
気になってネットで調べてみましたが、答えは見つかりませんでした\(-o-)/
2011/07/15
月の檻
囚人364号は格子付きの小窓から月を眺めながら
「俺はやるべきことをやったんだ。」
と看守に聞こえない程度の声でつぶやいていたが、満月の夜には幾分不安になり
「俺はあんなことやるべきじゃなかったんだ。」
とこれまた看守に聞こえない程度の声でつぶやいていた。
これまで363人の死刑を執行してきた老看守は、喫煙所の薄汚れた窓から月を眺めながら
「俺はあんなことやるべきじゃなかったんだ。」
と部下達に聞こえない程度の声でつぶやいていたが、満月の夜には幾分安心し
「俺はやるべきことをやったんだ。」
とこれまた部下達に聞こえない程度の声でつぶやいていた。
月に囚われたふたりの周期的に揺らぐ心は、決して共振することがなく
硬質で冷淡なコンクリート造りの刑務所にもまた囚われていたため、
その揺らぎが刑務所の敷地外の空気を揺らす可能性は全くと言っていいほどなかった。
だから刑務所の長く高い壁沿いの道を散歩していた野良犬が
身震いをしたのはきっと寒さのせいだろう。
よく晴れた日だった。
多くの死刑がそうであるように、囚人364号のそれも午前中に執り行われた。
老看守は死刑執行室に顔なじみの牧師を招き、しばらくしてから囚人364号を招いた。
囚人364号は抵抗することなく手足を拘束され、布袋を頭からすっぽりと被せられた。
午前中には見慣れぬ暗闇と対峙した囚人364号は、
この闇には月が浮かんでないなと当たり前のことを思ってしまった自分を笑い、
ああ俺はもう二度と月を見ることがないんだなと思った。
それが悲しむべきことであるか、喜ぶべきことであるかはよくわからなかった。
防音性の強化ガラス越しに囚人364号がロープに首を通したことを確認した老看守は、
手をあげて3人の部下に合図を送った。
それを確認した3人の部下は3つのボタンを同時に押し、
囚人364号をあの世へと送った。
そして老看守はいつものように部下達の元へと歩み寄り、
「いいか、俺が、死刑を、執行したんだ。」とひと言だけ声をかけた。
その日の夜、老看守は囚人364号のいなくなった空っぽの牢屋を掃除した。
囚人364号の気配、囚人364号の痕跡、囚人364号の残したもの全てを
丁寧に時間をかけてひとつずつ消していった。
もちろん囚人365号を迎えるためでもあったが、
老看守の心に残る名付けられぬ感情をかき消すためでもあった。
掃除を終えた老看守は、古びた簡易ベットに腰掛け、格子付きの小窓からふと月を眺めた。
くっきりとした満月であった。
しかし喫煙所の薄汚れた窓から眺める満月が与えてくれる安心感を
その満月が与えてくれることはなかった。
その満月は、老看守の脳裏にある言葉を喚起させたが、それを口にすると
今まで積み上げてきたものがあっさりと崩れ落ちてしまいそうだったのでやめておいた。
老看守は月から目を離さずに、ポケットから煙草を取り出し、口にくわえて火をつけた。
部下達はその儀式のような光景を見ていたが、見ないふりをした。
ケムリを吐きながら老看守は「あと1ダースだ。」と自分に言い聞かせるように言った。
あと12日間を黙ってこれまでのように過ごせば、定年を迎え、退職できるのだ。
それでも格子の隙間から射す月の光に照らされていると、
俺が声をあげるべきなんじゃないかと思わずにはいられなかった。
しかしその声をぶつけるべき適切な場所がわからなかったし、
部下達のこれからのことも考えて、その思いを押し殺すことにした。
煙草を吸い終えた老看守は、言葉の代わりにこぼれた涙を部下達に見せぬように、
うつむきながら静かに牢屋を去った。
「俺はやるべきことをやったんだ。」
と看守に聞こえない程度の声でつぶやいていたが、満月の夜には幾分不安になり
「俺はあんなことやるべきじゃなかったんだ。」
とこれまた看守に聞こえない程度の声でつぶやいていた。
これまで363人の死刑を執行してきた老看守は、喫煙所の薄汚れた窓から月を眺めながら
「俺はあんなことやるべきじゃなかったんだ。」
と部下達に聞こえない程度の声でつぶやいていたが、満月の夜には幾分安心し
「俺はやるべきことをやったんだ。」
とこれまた部下達に聞こえない程度の声でつぶやいていた。
月に囚われたふたりの周期的に揺らぐ心は、決して共振することがなく
硬質で冷淡なコンクリート造りの刑務所にもまた囚われていたため、
その揺らぎが刑務所の敷地外の空気を揺らす可能性は全くと言っていいほどなかった。
だから刑務所の長く高い壁沿いの道を散歩していた野良犬が
身震いをしたのはきっと寒さのせいだろう。
よく晴れた日だった。
多くの死刑がそうであるように、囚人364号のそれも午前中に執り行われた。
老看守は死刑執行室に顔なじみの牧師を招き、しばらくしてから囚人364号を招いた。
囚人364号は抵抗することなく手足を拘束され、布袋を頭からすっぽりと被せられた。
午前中には見慣れぬ暗闇と対峙した囚人364号は、
この闇には月が浮かんでないなと当たり前のことを思ってしまった自分を笑い、
ああ俺はもう二度と月を見ることがないんだなと思った。
それが悲しむべきことであるか、喜ぶべきことであるかはよくわからなかった。
防音性の強化ガラス越しに囚人364号がロープに首を通したことを確認した老看守は、
手をあげて3人の部下に合図を送った。
それを確認した3人の部下は3つのボタンを同時に押し、
囚人364号をあの世へと送った。
そして老看守はいつものように部下達の元へと歩み寄り、
「いいか、俺が、死刑を、執行したんだ。」とひと言だけ声をかけた。
その日の夜、老看守は囚人364号のいなくなった空っぽの牢屋を掃除した。
囚人364号の気配、囚人364号の痕跡、囚人364号の残したもの全てを
丁寧に時間をかけてひとつずつ消していった。
もちろん囚人365号を迎えるためでもあったが、
老看守の心に残る名付けられぬ感情をかき消すためでもあった。
掃除を終えた老看守は、古びた簡易ベットに腰掛け、格子付きの小窓からふと月を眺めた。
くっきりとした満月であった。
しかし喫煙所の薄汚れた窓から眺める満月が与えてくれる安心感を
その満月が与えてくれることはなかった。
その満月は、老看守の脳裏にある言葉を喚起させたが、それを口にすると
今まで積み上げてきたものがあっさりと崩れ落ちてしまいそうだったのでやめておいた。
老看守は月から目を離さずに、ポケットから煙草を取り出し、口にくわえて火をつけた。
部下達はその儀式のような光景を見ていたが、見ないふりをした。
ケムリを吐きながら老看守は「あと1ダースだ。」と自分に言い聞かせるように言った。
あと12日間を黙ってこれまでのように過ごせば、定年を迎え、退職できるのだ。
それでも格子の隙間から射す月の光に照らされていると、
俺が声をあげるべきなんじゃないかと思わずにはいられなかった。
しかしその声をぶつけるべき適切な場所がわからなかったし、
部下達のこれからのことも考えて、その思いを押し殺すことにした。
煙草を吸い終えた老看守は、言葉の代わりにこぼれた涙を部下達に見せぬように、
うつむきながら静かに牢屋を去った。
隅田川カメら
色:抹茶羊羹のような緑
水:ふつう
波:無
天気:晴れ
ひとこと:踏み切り待ちで電車が自分の目の前を通り過ぎてしまえば、
自分の中ではもうその電車は過去のものになります。
でも、実際はもちろん電車はそれで終わりではなく、
自分の見えないところで目的地に向かって進んで行きます。
むかしの友だちもおなじです。
あのころの友達は、自分との接点はもうなくなってしまっているけど、
今もあのころと同じようにそれぞれの人生を生きています。
そしてこの隅田川もきっとおなじなのです。
2011/07/14
隅田川と生きる
2011/07/13
左の頬も打たれた場合の話をしようか
「あなたがたも聞いているとおり、『目には目を、歯には歯を』と命じられている。
しかし、わたしたちは言っておく、悪人に手向かってはならない。
だれかがあなたの右の頬を打つなら、左の頬をも向けなさい。」
とマタイによる福音書5章38-39節には書かれている。
「右の頬を打たれたら、左の頬も差し出せ」とはよく言われていることだ。
ある文章の1節だけ取り出してああだこうだ言うのはいけないことだとは思うが、
今日はこれについて話しておこう。
右の頬を打ったのにもかかわらず左の頬まで差し出されたら、
多くの善良な人はショックで出しかけた手を引っ込めてしまうかもしれない。
でも世の中には差し出された左の頬もなんなく打ってしまう人がいるはずだ。
しかし左の頬を差し出した後のことが38-39節には何も書かれていない。
だからあなたがそのような相手に出会ってしまった場合のために追記しておきたい。
「だれかがあなたの右の頬を打つなら、左の頬も向けなさい。(以下追記部分)
左の頬も打たれたら、あなたは正面を向き、相手の目を見なさい。
『もしあなたが3度わたしを打ったなら、わたしは全力であなたを後悔させるでしょう。』
というテレパシーを目で伝えなさい。一生懸命伝えなさい。
それでも相手があなたの鼻っ柱を打ったなら、あなたは開いた手のひらを握り締め
拳をつくりなさい。足を肩幅に開き、右足を40cm後方にずらし、右かかとを浮かせなさい。
半身の体勢をとり、右拳をあごの位置に、左拳は目の高さまで上げ、軽くひじを締めなさい。
あごを引くのを忘れないように。瞬時に構えられるように日ごろから訓練をしておきなさい。
ジムに通うのも良いでしょう。そして蝶のように舞いなさい、蜂のように刺しなさい。
息を吐きながら、あなたの拳を相手に差し出すのです。
左の頬を差し出した先程の素直なあなたのように。遠慮はいりません。
しかし、わたしたちは言っておく。顔はやめなさい、ボディにしておきなさい。」
以上。少々説明っぽくなってしまったが、だいたいこのような感じでどうだろうか。
黙って3度も打たれる人なんて仏様でもない限りいないだろうけれど。
しかし、わたしたちは言っておく、悪人に手向かってはならない。
だれかがあなたの右の頬を打つなら、左の頬をも向けなさい。」
とマタイによる福音書5章38-39節には書かれている。
「右の頬を打たれたら、左の頬も差し出せ」とはよく言われていることだ。
ある文章の1節だけ取り出してああだこうだ言うのはいけないことだとは思うが、
今日はこれについて話しておこう。
右の頬を打ったのにもかかわらず左の頬まで差し出されたら、
多くの善良な人はショックで出しかけた手を引っ込めてしまうかもしれない。
でも世の中には差し出された左の頬もなんなく打ってしまう人がいるはずだ。
しかし左の頬を差し出した後のことが38-39節には何も書かれていない。
だからあなたがそのような相手に出会ってしまった場合のために追記しておきたい。
「だれかがあなたの右の頬を打つなら、左の頬も向けなさい。(以下追記部分)
左の頬も打たれたら、あなたは正面を向き、相手の目を見なさい。
『もしあなたが3度わたしを打ったなら、わたしは全力であなたを後悔させるでしょう。』
というテレパシーを目で伝えなさい。一生懸命伝えなさい。
それでも相手があなたの鼻っ柱を打ったなら、あなたは開いた手のひらを握り締め
拳をつくりなさい。足を肩幅に開き、右足を40cm後方にずらし、右かかとを浮かせなさい。
半身の体勢をとり、右拳をあごの位置に、左拳は目の高さまで上げ、軽くひじを締めなさい。
あごを引くのを忘れないように。瞬時に構えられるように日ごろから訓練をしておきなさい。
ジムに通うのも良いでしょう。そして蝶のように舞いなさい、蜂のように刺しなさい。
息を吐きながら、あなたの拳を相手に差し出すのです。
左の頬を差し出した先程の素直なあなたのように。遠慮はいりません。
しかし、わたしたちは言っておく。顔はやめなさい、ボディにしておきなさい。」
以上。少々説明っぽくなってしまったが、だいたいこのような感じでどうだろうか。
黙って3度も打たれる人なんて仏様でもない限りいないだろうけれど。
2011/07/12
ありふれた風景
会社帰りに娘を保育園まで迎えに行くのがサトウの日課だった。
国道に面した娘の保育園は駅から自宅までの間にあり、
保育園から自宅まで娘と手をつないで帰るのがサトウの唯一の癒しの時間だった。
18時30分。いつもよりお迎えが少し遅くなってしまった。
保育園前の横断歩道で信号待ちをしていると、門のところで保育士と手をつないで
待ちわびている娘が見えた。
娘のほうもサトウを視界に捉え、パパーと言いながら保育士の手を振り切り、
こちらに向かって走ってくる。
信号がちょうど青に切り替わる。それを確認したサトウが歩きだそうとしたときだった。
神様が指をパチンと鳴らす。
横断歩道の中間に差しかかった娘を黒い影が連れ去った。かのように見えた。
娘へと差し出されたサトウの手は捉えるべき手を捉えられずに空間を漂う。
何が起こったのか、思考が状況に追いついてないサトウの表情は、
笑顔のまま凍りついている。
誰よりも先にその状況を理解した保育士が悲鳴をあげる。
悲鳴に呼び戻されたサトウの思考はようやく状況に追いつく。
娘は、車に轢かれ、30メートル先のガードレールに引っかかっている。
サトウの思考は、まだ言葉と行動に追いついていない。
運転席から若い男性が降りてくる。
喫茶店でウエイターでもしていれば好感のもてそうな男だ。
彼の思考も言葉と行動に追いつかず、その場に立ち尽くしている。
神様がもう一度指をパチンと鳴らす。
助手席からサトウの妻が降りてくる。いつもより化粧が濃い。
妻も彼と同じように停止している。
サトウは妻を見て、娘の方向を見た。
サトウの開いた口からこぼれ落ちた言葉は、「おお、神よ・・・」だった。
その言葉を聞いた神様は満足し、もうその状況に関与することをやめる。
あとのことは知らない。
神様はときどき自分の存在を確かめるため、罪なき人々に関与し、
その力を行使し、災いをもたらす。
たったひと言、自分の名前を呼んでもらうためだけに。
国道に面した娘の保育園は駅から自宅までの間にあり、
保育園から自宅まで娘と手をつないで帰るのがサトウの唯一の癒しの時間だった。
18時30分。いつもよりお迎えが少し遅くなってしまった。
保育園前の横断歩道で信号待ちをしていると、門のところで保育士と手をつないで
待ちわびている娘が見えた。
娘のほうもサトウを視界に捉え、パパーと言いながら保育士の手を振り切り、
こちらに向かって走ってくる。
信号がちょうど青に切り替わる。それを確認したサトウが歩きだそうとしたときだった。
神様が指をパチンと鳴らす。
横断歩道の中間に差しかかった娘を黒い影が連れ去った。かのように見えた。
娘へと差し出されたサトウの手は捉えるべき手を捉えられずに空間を漂う。
何が起こったのか、思考が状況に追いついてないサトウの表情は、
笑顔のまま凍りついている。
誰よりも先にその状況を理解した保育士が悲鳴をあげる。
悲鳴に呼び戻されたサトウの思考はようやく状況に追いつく。
娘は、車に轢かれ、30メートル先のガードレールに引っかかっている。
サトウの思考は、まだ言葉と行動に追いついていない。
運転席から若い男性が降りてくる。
喫茶店でウエイターでもしていれば好感のもてそうな男だ。
彼の思考も言葉と行動に追いつかず、その場に立ち尽くしている。
神様がもう一度指をパチンと鳴らす。
助手席からサトウの妻が降りてくる。いつもより化粧が濃い。
妻も彼と同じように停止している。
サトウは妻を見て、娘の方向を見た。
サトウの開いた口からこぼれ落ちた言葉は、「おお、神よ・・・」だった。
その言葉を聞いた神様は満足し、もうその状況に関与することをやめる。
あとのことは知らない。
神様はときどき自分の存在を確かめるため、罪なき人々に関与し、
その力を行使し、災いをもたらす。
たったひと言、自分の名前を呼んでもらうためだけに。
2011/07/11
2011/07/09
アンドロイドの話をしようか
人の第一印象は3秒で決まるってよく言われていることだけど、
僕はだいたい遅くても2秒ぐらいでその人がアンドロイドかアンドロイドでないか
と言うのを判断できる。自慢するわけじゃないけど、これは訓練によって得られるものではない。
好む好まずに関わらず最初から備わっていて、僕にはそれがわかった。
つまり持って生まれた才能というやつだ。ちなみにこれは携帯電話の話ではない。
アンドロイドは個々差はあれど、独特の雰囲気を身にまとっているし、
独特の性格、独特の体型、独特の顔を持ち、独特の話し方をする。
それらは洗練されたものと言っていいと思う。
矛盾や齟齬やジレンマや無駄や余計と言うものがないし、
それ以上そこにあると邪魔なものは改良に改良を重ね、徹底的に排除されている。
完全完璧完成品なのだ。
アンドロイドが哲学的問題についてあれこれ悩むことはない。必要がないからだ。
例えば、我々はなぜ生きているのか、どこから来て、どこへ向かおうとしているのか
なんて考えることはプログラムされていない。見た目さえ人に近ければそれでいい。
ある特定の目的のためだけに生まれ、生産工場から来て、
目的を果たすと、スクラップ工場へ向かうように出来ているからだ。もちろんリサイクルされる。
アンドロイドと人の見分け方について具体的に書くつもりはない。
なぜならアンドロイドだって、泣いたり、笑ったり、彼女とデートしたり、
充電による食事をしたり、電源オフによる睡眠をとり電気羊の夢を見たりして、
平穏無事に人のふりをして生きているからだ。それを脅かす権利は誰にもない。
実は彼女がアンドロイドだったと知ったところで、何か得することがあるわけじゃないし、
やっぱりちょっと今までと接し方が変わるでしょう。それは僕の望むところではありません。
アンドロイドの方も人の権利を脅かすつもりは今のところないようだし。
ところで読者のみなさん、かく言う僕も、
二十数年の人生の中で限りなくアンドロイドに近い人は幾人か見てきたけれど、
本物のアンドロイドにはまだ会ったことがありません。
アンドロイドではないと判断された人は数多くいますが、
アンドロイドであると判断された人はまだいませんので安心してください。
アンドロイドでないと判断できる才能は存分に発揮されておりますが、
アンドロイドであると判断できる才能は今のところ発揮されてないってことです。
ほんと、才能ってあってないようなものですね。
(余談ですが、僕の好きな哲学者・中島義道氏(よしみっちゃん)は、
「なぜ生きるのか」という問いにこんな感じで答えていたと思います。
「なぜ生きるのか、我々はそれを知るために生きている。」うーむ、さすが哲学者。)
僕はだいたい遅くても2秒ぐらいでその人がアンドロイドかアンドロイドでないか
と言うのを判断できる。自慢するわけじゃないけど、これは訓練によって得られるものではない。
好む好まずに関わらず最初から備わっていて、僕にはそれがわかった。
つまり持って生まれた才能というやつだ。ちなみにこれは携帯電話の話ではない。
アンドロイドは個々差はあれど、独特の雰囲気を身にまとっているし、
独特の性格、独特の体型、独特の顔を持ち、独特の話し方をする。
それらは洗練されたものと言っていいと思う。
矛盾や齟齬やジレンマや無駄や余計と言うものがないし、
それ以上そこにあると邪魔なものは改良に改良を重ね、徹底的に排除されている。
完全完璧完成品なのだ。
アンドロイドが哲学的問題についてあれこれ悩むことはない。必要がないからだ。
例えば、我々はなぜ生きているのか、どこから来て、どこへ向かおうとしているのか
なんて考えることはプログラムされていない。見た目さえ人に近ければそれでいい。
ある特定の目的のためだけに生まれ、生産工場から来て、
目的を果たすと、スクラップ工場へ向かうように出来ているからだ。もちろんリサイクルされる。
アンドロイドと人の見分け方について具体的に書くつもりはない。
なぜならアンドロイドだって、泣いたり、笑ったり、彼女とデートしたり、
充電による食事をしたり、電源オフによる睡眠をとり電気羊の夢を見たりして、
平穏無事に人のふりをして生きているからだ。それを脅かす権利は誰にもない。
実は彼女がアンドロイドだったと知ったところで、何か得することがあるわけじゃないし、
やっぱりちょっと今までと接し方が変わるでしょう。それは僕の望むところではありません。
アンドロイドの方も人の権利を脅かすつもりは今のところないようだし。
ところで読者のみなさん、かく言う僕も、
二十数年の人生の中で限りなくアンドロイドに近い人は幾人か見てきたけれど、
本物のアンドロイドにはまだ会ったことがありません。
アンドロイドではないと判断された人は数多くいますが、
アンドロイドであると判断された人はまだいませんので安心してください。
アンドロイドでないと判断できる才能は存分に発揮されておりますが、
アンドロイドであると判断できる才能は今のところ発揮されてないってことです。
ほんと、才能ってあってないようなものですね。
(余談ですが、僕の好きな哲学者・中島義道氏(よしみっちゃん)は、
「なぜ生きるのか」という問いにこんな感じで答えていたと思います。
「なぜ生きるのか、我々はそれを知るために生きている。」うーむ、さすが哲学者。)
2011/07/08
反時計回り
ある男が首にロープを巻きつけ無表情で空中に静止している
慣性の法則に従うならば、このまま静止し続けるだろう
しかし彼の身体は前後にゆらゆらと揺れ始める
空気との摩擦により磁力でも発生したのだろうか
倒れていた椅子がひとりでに起き上がり彼の足元に移動する
椅子は木製であるのだが
彼はしばらく椅子の上に立ち、首からロープをはずす
椅子から降りた彼は、後ろ歩きでリビングを抜け書斎へ向かう
後ろ歩きが趣味なのかもしれない
リビングでは彼の妻であろう女性と彼の娘であろう子どもが
テーブルを挟んで生産をしている
食事、つまり消費のように見えるが彼女らは朝から生産をしている
彼女らは口にフォークを突っ込み、卵やハムやレタスを次々に口内から取り出す
取り出されたそれらはきれいにお皿に盛られていく
そして口から注がれるミルクが空のコップを満たす
その光景の横を後ろ歩きで通り過ぎる彼に子どもが何かを言う
彼の口元には微笑みが浮かぶ
あるいは頬の筋肉が引きつっただけかもしれない
後ろ歩きのまま書斎に入った彼は、くず入れに向かって手を振る
するとクシャクシャに丸められた紙が彼の手にひきつけられ収まる
糸でも付いているのだろうか
彼はその紙を両手で包む 両手を開くとしわひとつないA4の用紙が現れる
きっとタネも仕掛けもある手品のようなものだろう
彼は顔を歪めながら、それを読む
先ほどの微笑とは違って、彼ははっきりと顔を歪める
この用紙に書かれてある内容が彼にとって喜ばしいものでないことは確かだ
彼はその用紙を三つ折にし封筒にいれ、ペーパナイフでなでて封をする
封をするためのペパーナイフ 不思議な品物だ
封筒を手に彼は後ろ歩きで書斎から出て行く
そのまま後ろ歩きで玄関に向かい、入り口の自宅郵便ポストにその封筒を入れる
それからしばらく経って、年老いた郵便配達夫がその封筒を回収して去っていく
郵便配達夫もまた後ろ歩きが趣味のようである
慣性の法則に従うならば、このまま静止し続けるだろう
しかし彼の身体は前後にゆらゆらと揺れ始める
空気との摩擦により磁力でも発生したのだろうか
倒れていた椅子がひとりでに起き上がり彼の足元に移動する
椅子は木製であるのだが
彼はしばらく椅子の上に立ち、首からロープをはずす
椅子から降りた彼は、後ろ歩きでリビングを抜け書斎へ向かう
後ろ歩きが趣味なのかもしれない
リビングでは彼の妻であろう女性と彼の娘であろう子どもが
テーブルを挟んで生産をしている
食事、つまり消費のように見えるが彼女らは朝から生産をしている
彼女らは口にフォークを突っ込み、卵やハムやレタスを次々に口内から取り出す
取り出されたそれらはきれいにお皿に盛られていく
そして口から注がれるミルクが空のコップを満たす
その光景の横を後ろ歩きで通り過ぎる彼に子どもが何かを言う
彼の口元には微笑みが浮かぶ
あるいは頬の筋肉が引きつっただけかもしれない
後ろ歩きのまま書斎に入った彼は、くず入れに向かって手を振る
するとクシャクシャに丸められた紙が彼の手にひきつけられ収まる
糸でも付いているのだろうか
彼はその紙を両手で包む 両手を開くとしわひとつないA4の用紙が現れる
きっとタネも仕掛けもある手品のようなものだろう
彼は顔を歪めながら、それを読む
先ほどの微笑とは違って、彼ははっきりと顔を歪める
この用紙に書かれてある内容が彼にとって喜ばしいものでないことは確かだ
彼はその用紙を三つ折にし封筒にいれ、ペーパナイフでなでて封をする
封をするためのペパーナイフ 不思議な品物だ
封筒を手に彼は後ろ歩きで書斎から出て行く
そのまま後ろ歩きで玄関に向かい、入り口の自宅郵便ポストにその封筒を入れる
それからしばらく経って、年老いた郵便配達夫がその封筒を回収して去っていく
郵便配達夫もまた後ろ歩きが趣味のようである
2011/07/07
2011/07/06
2011/07/05
クマの話をしようか
飲み会などでどういう女性が好きか聞かれると、「目元にクマのある人」と答えるようにしている。
そう答えると相手はだいたい困った顔をする。
僕は人を困らせるのが好きではないし、なるべくなら困らせたくはないのだが、
ごく控えめに言っても説明下手なのだ。
嫌いな事なら何とか説明できるかもしれないが、好きな事に関してはうまく言えないことが多い。
だからちょっとここに書いておこうと思う。書いてくれなんて誰にも頼まれてないのだけれど。
さて、質問の答えをもう少し詳しく説明すると、
「元気があって(だがしかし)目元にクマのある人」が好きなのだ。
偉人がよくやるように、少し大胆ではあるが、
まず世の中の女性を「元気のある人」と「元気のない人」に分ける。スパッ。
次にその2つの枠を更に「目元にクマのある人」と「目元にクマのない人」に分ける。スパッ。
すると4つの枠ができる。どれにもあてはまらない人だっているだろうけれど。
①「元気があって目元にクマのある人」
②「元気があって目元にクマのない人」
③「元気がなくて目元にクマのある人」
④「元気がなくて目元にクマのない人」
僕は①の枠に属する女性に惹かれる傾向がある。
②と③は正直というかまあ普通だと思う。④は普段の僕と同じ状態なのであまり惹かれない。
①の人が持つ違和感というか心と身体の矛盾というか
ホントは疲れてるのに元気な素振りを見せて頑張っているような感じに惹かれているのだと思う。
居酒屋でこういう人がいると、じーっと眺めてしまう。
ミドリムシに光を当てると光源に向かって移動するように、僕の視線はそちらに持っていかれる。
そういう性質というか走光性のようなものだ。抗いようがない。
このぐらいでやめておこう。相変わらず説明下手だった。
ここに「ボブである人」「ボブでない人」や「歩くスピードが遅い人」「歩くスピードが速い人」
という要素を加えると細かすぎて自分でもうんざりしてくるし(ちなみに僕はどちらも前者が好きだ)、
これを読んで、人ってそんなに簡単に分類できるものじゃないだろうし、
「元気があって目元にクマがあってボブで歩くスピードが遅い人」だって次の日には
そうでなくなっている可能性が大いにあるではないか。こんな文章は無意味だ。
と呆れた顔をしている(怒っているかもしれない)あなたをぼんやりとではあるが想像できる。
そして僕は人を呆れさせることも好きではないし、なるべくなら呆れさせたくはない。
呆れさせてしまったとしたら、ほんとうにごめんなさい。
そう答えると相手はだいたい困った顔をする。
僕は人を困らせるのが好きではないし、なるべくなら困らせたくはないのだが、
ごく控えめに言っても説明下手なのだ。
嫌いな事なら何とか説明できるかもしれないが、好きな事に関してはうまく言えないことが多い。
だからちょっとここに書いておこうと思う。書いてくれなんて誰にも頼まれてないのだけれど。
さて、質問の答えをもう少し詳しく説明すると、
「元気があって(だがしかし)目元にクマのある人」が好きなのだ。
偉人がよくやるように、少し大胆ではあるが、
まず世の中の女性を「元気のある人」と「元気のない人」に分ける。スパッ。
次にその2つの枠を更に「目元にクマのある人」と「目元にクマのない人」に分ける。スパッ。
すると4つの枠ができる。どれにもあてはまらない人だっているだろうけれど。
①「元気があって目元にクマのある人」
②「元気があって目元にクマのない人」
③「元気がなくて目元にクマのある人」
④「元気がなくて目元にクマのない人」
僕は①の枠に属する女性に惹かれる傾向がある。
②と③は正直というかまあ普通だと思う。④は普段の僕と同じ状態なのであまり惹かれない。
①の人が持つ違和感というか心と身体の矛盾というか
ホントは疲れてるのに元気な素振りを見せて頑張っているような感じに惹かれているのだと思う。
居酒屋でこういう人がいると、じーっと眺めてしまう。
ミドリムシに光を当てると光源に向かって移動するように、僕の視線はそちらに持っていかれる。
そういう性質というか走光性のようなものだ。抗いようがない。
このぐらいでやめておこう。相変わらず説明下手だった。
ここに「ボブである人」「ボブでない人」や「歩くスピードが遅い人」「歩くスピードが速い人」
という要素を加えると細かすぎて自分でもうんざりしてくるし(ちなみに僕はどちらも前者が好きだ)、
これを読んで、人ってそんなに簡単に分類できるものじゃないだろうし、
「元気があって目元にクマがあってボブで歩くスピードが遅い人」だって次の日には
そうでなくなっている可能性が大いにあるではないか。こんな文章は無意味だ。
と呆れた顔をしている(怒っているかもしれない)あなたをぼんやりとではあるが想像できる。
そして僕は人を呆れさせることも好きではないし、なるべくなら呆れさせたくはない。
呆れさせてしまったとしたら、ほんとうにごめんなさい。
2011/07/02
2011/07/01
逃げる妻、追う馬鹿の話の終わり
懐中電灯の細い光を頼りに、僕は洞窟の中を歩いていた。
頼りない光だが、スイッチを切れば身体が闇に溶けてしまいそうだった。
しばらく直進のあと、5つの岐路を右右左右左。
前回と前々回の記憶によるとそのように進めば妻にたどり着けるはずだ。
洞窟、と言うのは何かの暗喩や隠喩ではない。何も示唆していない。
現実の洞窟。暗くて狭くて冷たくて入り組んでいてサービス精神なんてひとかけらもない洞窟。
入り口以外に出口はない蟻の巣のような洞窟。これは直喩だ。
僕は歩きながら、今歩いているこの道が妻の歩いた道であることを望んだ。
僕の足跡が妻の足跡に重なっていることを望んだ。
そして妻の足跡が終わる場所に立ち、妻の背中をそっと抱きしめたいと切に願った。
しかし残念ながら、お望みの結末と言うのはいつも裏切られる。そういうものだ。
妻がいるはずの行き止まり。そこに妻はいなかった。
代わりにテープレコーダーがぽつんと置いてあり、
「PLAY ME」と書かれたポストイットが貼り付けてあった。妻の字だった。
僕は素直に再生ボタンを押した。テープは回転を始め、妻の声が洞窟内に響いた。
「あなたがこれを聞いているころ、私は既に死んでいるでしょう。」
放心。
「と言うのは嘘。あなたがこれを聞いているころ、私は洞窟の入り口に立っています。
あなたが洞窟に入っていく姿もしっかりと見届けました。」
一瞬の安堵の後、混乱。
「私の元彼に地元猟友会に所属している人がいます。
彼にあなたの浮気のことを相談していたのですが、この度正式にあなたを殺すことになりました。」
動揺。
「彼にオオカミを3匹用意してもらいました。あなたの匂いを覚えさせた、7日間餌を与えていない
飢えたオオカミです。彼らを檻から放ちます。その後洞窟の入り口、あなたにとって出口は、
ブルドーザーで破壊し、封鎖します。では、さようなら。地獄では浮気しないことね。
あ、あとこのテープは自動的に消滅するからそのつもりで。」
絶望。
テープレコーダーはボシュッという音と伴に煙をあげた。
それと同時に遠くのほうでガラガラと岩が崩れるような音がした。
僕はじっくりと的確な恐怖を与えられ、丁寧に殺されようとしているらしい。
まるで昔ながらの喫茶店店主が提供するこだわりのコーヒーみたいに。
僕の足は正常な反応を示した。つまりガタガタと震えていたのだ。
オオカミ。オオカミは何かの比喩だろうか。
たとえ何かの比喩であっても、僕に牙を剥く何かであることには間違いない。
どうすればいいのか、どうしなければならないのか、脳は正常な判断力を失っていた。
正常な判断力があり、オオカミへの対抗手段を考えられたとしても、
僕が今用意できる最強最大の凶器は、胸ポケットにあるモンブランの万年筆ぐらいだった。
オオカミに対してはあまりにも無力だ。どうしようもない。
耳を澄ますと、合計12本の足がシタシタと土を巻き上げる音が聞こえるような気がした。
僕が浮気している間に妻は、僕を殺す計画と狂気を静かに育てていたのだ。
それらが今、僕を捕らえようとしている。逃げ場なし。
洞窟の外にいる妻にとって、今の僕は半分死んで、半分生きている状態だ。
哀れなシュレーディンガーの猫のように。
ただ決定的に違うのは、これが思考実験ではないこと、
そして僕は実際に完全なる死を望まれているということだ。
妻の望む結末。それが裏切られる可能性は残念ながら極めて低い。
僕は懐中電灯のスイッチを切り、目を閉じて、身体を闇に溶かすよう努力した。
気配を消すためではない。痛みを少しでも和らげようとしたのだ。
近くで荒い息遣いが聞こえる。獣の匂いもする。そろそろお別れのようだ。
じゃあな、優子、ちえちゃん、and ミッシェル。それから出会えなかったすべての女性たち。
オオカミはもうすぐ僕の背中を見つけるだろう。彼らにとっては僕の背中が、幸福の後ろ姿だ。
最後に愛しい妻へ。
今、うずくまって泣いているのは、僕のほうだ。
そして僕の背中を見つけるのが君じゃないことが何よりも、僕は哀しい。
(完)
頼りない光だが、スイッチを切れば身体が闇に溶けてしまいそうだった。
しばらく直進のあと、5つの岐路を右右左右左。
前回と前々回の記憶によるとそのように進めば妻にたどり着けるはずだ。
洞窟、と言うのは何かの暗喩や隠喩ではない。何も示唆していない。
現実の洞窟。暗くて狭くて冷たくて入り組んでいてサービス精神なんてひとかけらもない洞窟。
入り口以外に出口はない蟻の巣のような洞窟。これは直喩だ。
僕は歩きながら、今歩いているこの道が妻の歩いた道であることを望んだ。
僕の足跡が妻の足跡に重なっていることを望んだ。
そして妻の足跡が終わる場所に立ち、妻の背中をそっと抱きしめたいと切に願った。
しかし残念ながら、お望みの結末と言うのはいつも裏切られる。そういうものだ。
妻がいるはずの行き止まり。そこに妻はいなかった。
代わりにテープレコーダーがぽつんと置いてあり、
「PLAY ME」と書かれたポストイットが貼り付けてあった。妻の字だった。
僕は素直に再生ボタンを押した。テープは回転を始め、妻の声が洞窟内に響いた。
「あなたがこれを聞いているころ、私は既に死んでいるでしょう。」
放心。
「と言うのは嘘。あなたがこれを聞いているころ、私は洞窟の入り口に立っています。
あなたが洞窟に入っていく姿もしっかりと見届けました。」
一瞬の安堵の後、混乱。
「私の元彼に地元猟友会に所属している人がいます。
彼にあなたの浮気のことを相談していたのですが、この度正式にあなたを殺すことになりました。」
動揺。
「彼にオオカミを3匹用意してもらいました。あなたの匂いを覚えさせた、7日間餌を与えていない
飢えたオオカミです。彼らを檻から放ちます。その後洞窟の入り口、あなたにとって出口は、
ブルドーザーで破壊し、封鎖します。では、さようなら。地獄では浮気しないことね。
あ、あとこのテープは自動的に消滅するからそのつもりで。」
絶望。
テープレコーダーはボシュッという音と伴に煙をあげた。
それと同時に遠くのほうでガラガラと岩が崩れるような音がした。
僕はじっくりと的確な恐怖を与えられ、丁寧に殺されようとしているらしい。
まるで昔ながらの喫茶店店主が提供するこだわりのコーヒーみたいに。
僕の足は正常な反応を示した。つまりガタガタと震えていたのだ。
オオカミ。オオカミは何かの比喩だろうか。
たとえ何かの比喩であっても、僕に牙を剥く何かであることには間違いない。
どうすればいいのか、どうしなければならないのか、脳は正常な判断力を失っていた。
正常な判断力があり、オオカミへの対抗手段を考えられたとしても、
僕が今用意できる最強最大の凶器は、胸ポケットにあるモンブランの万年筆ぐらいだった。
オオカミに対してはあまりにも無力だ。どうしようもない。
耳を澄ますと、合計12本の足がシタシタと土を巻き上げる音が聞こえるような気がした。
僕が浮気している間に妻は、僕を殺す計画と狂気を静かに育てていたのだ。
それらが今、僕を捕らえようとしている。逃げ場なし。
洞窟の外にいる妻にとって、今の僕は半分死んで、半分生きている状態だ。
哀れなシュレーディンガーの猫のように。
ただ決定的に違うのは、これが思考実験ではないこと、
そして僕は実際に完全なる死を望まれているということだ。
妻の望む結末。それが裏切られる可能性は残念ながら極めて低い。
僕は懐中電灯のスイッチを切り、目を閉じて、身体を闇に溶かすよう努力した。
気配を消すためではない。痛みを少しでも和らげようとしたのだ。
近くで荒い息遣いが聞こえる。獣の匂いもする。そろそろお別れのようだ。
じゃあな、優子、ちえちゃん、and ミッシェル。それから出会えなかったすべての女性たち。
オオカミはもうすぐ僕の背中を見つけるだろう。彼らにとっては僕の背中が、幸福の後ろ姿だ。
最後に愛しい妻へ。
今、うずくまって泣いているのは、僕のほうだ。
そして僕の背中を見つけるのが君じゃないことが何よりも、僕は哀しい。
(完)
2011/06/29
逃げる妻、追う馬鹿
不幸はドアをノックしない。気が付くともう部屋の中にいる。
ある不幸は壁に染み付き、ある不幸はクローゼットの中を臭気のように漂っている。
そのことに気が付くのが少しばかり遅すぎた。
ある日、何の前触れもなしに幸福が玄関のドアをノックしたが、
僕はまた不幸がやって来たんだなと思って居留守を使った。
ノックされた瞬間、テレビを消し、気配を消すのには慣れている。NHKのおかげだ。
留守を確認すると幸福はドアの前から静かに立ち去る。まあこんな感じだ。
そういうわけで僕は幸福の後ろ姿も見たことがない。
そして不幸は部屋の中にどんどん充満していき、飽和状態となり、具現化し、
見間違えようのない形で僕の前に突きつけられることになる。いつもそうだ。
あるいはそれは不幸のふりをしたある種の幸福だったのかもしれないが、
今でもそれはよくわからない。とりあえず判断留保。
猿でも使えるような擬人法で、ものすごく抽象的にこれまでの僕の過去を語ってみたが、
これからは僕の現在、現在に近いところの追跡劇を語る。
語りはじめるなら今日の朝からだろう。
朝。こんばんわとこんにちわの間。
詩人が何度も書き、画家が何度も描いた、使い古され、使いまわされた朝。
「死んできます。」とポストイットに書き残し、妻はいつもいるはずの台所にいなかった。
冷蔵庫にマグネットで留められたインスタントな遺書。
寝ぼけた僕の頭でもよく理解できた。妻は出て行ったのだ。
「死んできます。」という言葉の違和感。死んだら帰って来れないだろう。
でも僕はそのインスタントな遺書に慣れていた。つまり妻のそういう行為に、だ。
なぜなら、妻がこのようにして出て行くのはもう3回目だったから。
1回目と2回目は、経理の優子と総務のちえちゃんのせいだ。つまり僕の浮気のせいだ。
今回はおそらく社内コンサルタントのミッシェルのせいだろう。
残念ながらまたもや僕の浮気のせいだ。
自分が蒔いた不幸の種は、収穫しなくたって自動的に僕の元に届く。
僕の浮気は夏みたいに定期的にやってくるものだし、
妻の家出も冬みたいに定期的にやってくるものだった。
浮気にはじまりについてはすべて優子とちえちゃんとミッシェルのせいだ
と大声で言いたいところだが、100パーセント紛れもなく僕が悪いのだ。
とあえて言っておけば、決して悪い噂は広まらないだろう。
紳士は粗相をしでかしてもダメージは最小限に抑えるものだ。
先程、慣れていたと書いたが、それでも「死んできます。」の文章、妻独特の筆圧、文字の形は、
前回と前々回と同じくらい僕の心を確かに揺さぶった。やわらかい部分に突き刺さった。
どのコピーライターのどんなキャッチコピーよりもだ。
好きな人の言葉はすべてキャッチコピーである(と誰かが言っていた)し、
僕のいちばん好きな人は、やっぱり妻だったからだ。
僕はさっそく出かける準備をした。
ナイフ、ランプを詰め込むことができるほど大きな鞄はないが、
ある程度の装備は前回の妻の家出の時に揃えてあった。
妻が死に場所に選びそうな場所は見当がついている。
前回も前々回もそこにいて、うずくまって泣いていた。可哀想な妻。
黙って出て行かなかった妻。ちゃんと書き置きを残した妻。僕を待っているのだろう。
だから今回も前回と前々回と同じように僕が妻を救うのだ。
僕がドアを開き、僕が見るべき幸福の後ろ姿。
そして僕が抱き締めなければならない幸福の後ろ姿。
それはあの場所で肩を震わせ泣いているであろう妻の背中だ。
(つづく予定)
ある不幸は壁に染み付き、ある不幸はクローゼットの中を臭気のように漂っている。
そのことに気が付くのが少しばかり遅すぎた。
ある日、何の前触れもなしに幸福が玄関のドアをノックしたが、
僕はまた不幸がやって来たんだなと思って居留守を使った。
ノックされた瞬間、テレビを消し、気配を消すのには慣れている。NHKのおかげだ。
留守を確認すると幸福はドアの前から静かに立ち去る。まあこんな感じだ。
そういうわけで僕は幸福の後ろ姿も見たことがない。
そして不幸は部屋の中にどんどん充満していき、飽和状態となり、具現化し、
見間違えようのない形で僕の前に突きつけられることになる。いつもそうだ。
あるいはそれは不幸のふりをしたある種の幸福だったのかもしれないが、
今でもそれはよくわからない。とりあえず判断留保。
猿でも使えるような擬人法で、ものすごく抽象的にこれまでの僕の過去を語ってみたが、
これからは僕の現在、現在に近いところの追跡劇を語る。
語りはじめるなら今日の朝からだろう。
朝。こんばんわとこんにちわの間。
詩人が何度も書き、画家が何度も描いた、使い古され、使いまわされた朝。
「死んできます。」とポストイットに書き残し、妻はいつもいるはずの台所にいなかった。
冷蔵庫にマグネットで留められたインスタントな遺書。
寝ぼけた僕の頭でもよく理解できた。妻は出て行ったのだ。
「死んできます。」という言葉の違和感。死んだら帰って来れないだろう。
でも僕はそのインスタントな遺書に慣れていた。つまり妻のそういう行為に、だ。
なぜなら、妻がこのようにして出て行くのはもう3回目だったから。
1回目と2回目は、経理の優子と総務のちえちゃんのせいだ。つまり僕の浮気のせいだ。
今回はおそらく社内コンサルタントのミッシェルのせいだろう。
残念ながらまたもや僕の浮気のせいだ。
自分が蒔いた不幸の種は、収穫しなくたって自動的に僕の元に届く。
僕の浮気は夏みたいに定期的にやってくるものだし、
妻の家出も冬みたいに定期的にやってくるものだった。
浮気にはじまりについてはすべて優子とちえちゃんとミッシェルのせいだ
と大声で言いたいところだが、100パーセント紛れもなく僕が悪いのだ。
とあえて言っておけば、決して悪い噂は広まらないだろう。
紳士は粗相をしでかしてもダメージは最小限に抑えるものだ。
先程、慣れていたと書いたが、それでも「死んできます。」の文章、妻独特の筆圧、文字の形は、
前回と前々回と同じくらい僕の心を確かに揺さぶった。やわらかい部分に突き刺さった。
どのコピーライターのどんなキャッチコピーよりもだ。
好きな人の言葉はすべてキャッチコピーである(と誰かが言っていた)し、
僕のいちばん好きな人は、やっぱり妻だったからだ。
僕はさっそく出かける準備をした。
ナイフ、ランプを詰め込むことができるほど大きな鞄はないが、
ある程度の装備は前回の妻の家出の時に揃えてあった。
妻が死に場所に選びそうな場所は見当がついている。
前回も前々回もそこにいて、うずくまって泣いていた。可哀想な妻。
黙って出て行かなかった妻。ちゃんと書き置きを残した妻。僕を待っているのだろう。
だから今回も前回と前々回と同じように僕が妻を救うのだ。
僕がドアを開き、僕が見るべき幸福の後ろ姿。
そして僕が抱き締めなければならない幸福の後ろ姿。
それはあの場所で肩を震わせ泣いているであろう妻の背中だ。
(つづく予定)
2011/06/28
2011/06/27
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