2011/05/19

答えのない解答集

最期の言葉を聞いてやるのも殺し屋の仕事のひとつだ。

「言い残すことはあるか」

銃口を相手に向け、落ち着いた声でそう問うた瞬間、

その人物に対しての興味は、風の前の塵のようにふっと消え去る。

興味があるのは、その人物の口からこぼれ落ちる最期の言葉だ。

その言葉を頭の中で反芻し、何も言わずに人差し指にほんの少し力を入れるだけ。

バーン、射殺。はい、任務完了。

そして先程まで生命だったものの前で、俺は胸ポケットから手帳を取り出し、

忘れぬうちにメモしておく。一言一句逃さぬように。

手帳にはたくさんの最期の言葉たちが書かれている。

交渉、祈り、絶望、錯乱、憤慨、後悔。

主人を失った言葉たちがこの手帳に眠っているのだ。

パラパラと1ページずつめくっていたが、諦めて俺は手帳を閉じた。

やはりなかった。模範解答なんてない。

「言い残すことはあるか」

自分が問われるとは思ってもみなかったな。

今は拳銃も質問も俺に向けられている。

ひざまずき過ぎて膝が痛い。

眉間に触れる銃口がとても冷たい。

目を閉じて、俺は、俺自身の最期の言葉を探した。

2 件のコメント:

  1. アメリカかどこかで実際に調査された死刑囚の最後の言葉、
    いちばん使われてた単語は「love」だそうです。
    ちょっとしたトリビアでした。

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  2. All You Need is Love.

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