2011/05/06

傘が降る

ウラジオストクでシベリア鉄道に乗り、イルクーツク駅で銀河鉄道に乗り換える。

ウォッカをなめる時間は充分にあるだろう。

4つ目の駅で下車するともう外套は必要ない。

そこに傘の降る町がある。

本来であれば、傘は頭の上にかざすものであって、頭の上に降ってくるべきものではないのだが、

世間では雨が降る日、この町では傘が降るのだ。

傘が降るとある程度の死傷者が出る。

でもそれはあなたの町で雨が降ったって雪が降ったって同じことだ。

空から何かが降ってくれば、何人かが死ぬ。

理不尽なルールみたいなものだ。

この町に住む人々について話そう。

彼らは収入の大半を傘を他の町に売ることで得ている。

気の利いたある者は、美術館を建て、様々な傘を展示して稼いでいる。

そして彼らの収入の大半は降って来る傘によって壊れた家の修繕費に充てられる。

残念ながら傘無しには生きていけない人々なのだ。

この町に生まれた以上このループからは抜け出せない。

「なぜこの町には傘が降るのか、傘達はどこからやってくるのか。」

無邪気にそう問うてはならない。

おそらく彼らは答えを知っている。

でも言葉にするとそのどうしようもない事実を自分に突きつけるようで嫌なのだ。

私の仮説によると、これは傘の復讐だ。

この町は、傘による全ての復讐を引き受けている。

あなたがふと忘れて置いてけぼりにして、どこかに行ってしまった傘達が、家々の屋根に、彼らの頭にストンストンと突き刺さる。

傘が止み、静まりかえった町に浮かび上がるその光景を想像してみてほしい。

シュールでとてもリアルだ。

だから私はニュースで傘マークを目にしたとき、

遠い遠いあの町の方角に手を合わせることにしている。

あ、そういえばイルクーツク駅に傘を忘れてきてしまった。

まぁ、また買えばいいか。

3 件のコメント:

  1. 酔って書いたものに大幅な加筆・修正を加えた文章です。

    (きのした)

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  2. 思わず絵を描いてみたくなる物語だと思ったけど、どんな色で塗ったらいいかわからない物語だなとも思いました。

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  3. 僕もわからない。

    (きのした)

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