2011/07/05

クマの話をしようか

飲み会などでどういう女性が好きか聞かれると、「目元にクマのある人」と答えるようにしている。

そう答えると相手はだいたい困った顔をする。

僕は人を困らせるのが好きではないし、なるべくなら困らせたくはないのだが、

ごく控えめに言っても説明下手なのだ。

嫌いな事なら何とか説明できるかもしれないが、好きな事に関してはうまく言えないことが多い。

だからちょっとここに書いておこうと思う。書いてくれなんて誰にも頼まれてないのだけれど。

さて、質問の答えをもう少し詳しく説明すると、

「元気があって(だがしかし)目元にクマのある人」が好きなのだ。

偉人がよくやるように、少し大胆ではあるが、

まず世の中の女性を「元気のある人」と「元気のない人」に分ける。スパッ。

次にその2つの枠を更に「目元にクマのある人」と「目元にクマのない人」に分ける。スパッ。

すると4つの枠ができる。どれにもあてはまらない人だっているだろうけれど。

①「元気があって目元にクマのある人」

②「元気があって目元にクマのない人」

③「元気がなくて目元にクマのある人」

④「元気がなくて目元にクマのない人」

僕は①の枠に属する女性に惹かれる傾向がある。

②と③は正直というかまあ普通だと思う。④は普段の僕と同じ状態なのであまり惹かれない。

①の人が持つ違和感というか心と身体の矛盾というか

ホントは疲れてるのに元気な素振りを見せて頑張っているような感じに惹かれているのだと思う。

居酒屋でこういう人がいると、じーっと眺めてしまう。

ミドリムシに光を当てると光源に向かって移動するように、僕の視線はそちらに持っていかれる。

そういう性質というか走光性のようなものだ。抗いようがない。

このぐらいでやめておこう。相変わらず説明下手だった。

ここに「ボブである人」「ボブでない人」や「歩くスピードが遅い人」「歩くスピードが速い人」

という要素を加えると細かすぎて自分でもうんざりしてくるし(ちなみに僕はどちらも前者が好きだ)、

これを読んで、人ってそんなに簡単に分類できるものじゃないだろうし、

「元気があって目元にクマがあってボブで歩くスピードが遅い人」だって次の日には

そうでなくなっている可能性が大いにあるではないか。こんな文章は無意味だ。

と呆れた顔をしている(怒っているかもしれない)あなたをぼんやりとではあるが想像できる。

そして僕は人を呆れさせることも好きではないし、なるべくなら呆れさせたくはない。

呆れさせてしまったとしたら、ほんとうにごめんなさい。

ほぼ日刊隅田川





















色:茶色
水:ふつう
波:うねうねと
天気:晴れ
ひとこと:晴れていても、波が大きい日もあるんだよ。

ビールジョッキの向こう

あの人に隅田川よりも気になる人ができてしまったか。

2011/07/02

PLAY YOU

ドキ
ドキドキ
ドキドキドキ

どき
どきどき
どきどきどき

心拍数。

2011/07/01

逃げる妻、追う馬鹿の話の終わり

懐中電灯の細い光を頼りに、僕は洞窟の中を歩いていた。

頼りない光だが、スイッチを切れば身体が闇に溶けてしまいそうだった。

しばらく直進のあと、5つの岐路を右右左右左。

前回と前々回の記憶によるとそのように進めば妻にたどり着けるはずだ。

洞窟、と言うのは何かの暗喩や隠喩ではない。何も示唆していない。

現実の洞窟。暗くて狭くて冷たくて入り組んでいてサービス精神なんてひとかけらもない洞窟。

入り口以外に出口はない蟻の巣のような洞窟。これは直喩だ。

僕は歩きながら、今歩いているこの道が妻の歩いた道であることを望んだ。

僕の足跡が妻の足跡に重なっていることを望んだ。

そして妻の足跡が終わる場所に立ち、妻の背中をそっと抱きしめたいと切に願った。

しかし残念ながら、お望みの結末と言うのはいつも裏切られる。そういうものだ。

妻がいるはずの行き止まり。そこに妻はいなかった。

代わりにテープレコーダーがぽつんと置いてあり、

「PLAY ME」と書かれたポストイットが貼り付けてあった。妻の字だった。

僕は素直に再生ボタンを押した。テープは回転を始め、妻の声が洞窟内に響いた。

「あなたがこれを聞いているころ、私は既に死んでいるでしょう。」

放心。

「と言うのは嘘。あなたがこれを聞いているころ、私は洞窟の入り口に立っています。

あなたが洞窟に入っていく姿もしっかりと見届けました。」

一瞬の安堵の後、混乱。

「私の元彼に地元猟友会に所属している人がいます。

彼にあなたの浮気のことを相談していたのですが、この度正式にあなたを殺すことになりました。」

動揺。

「彼にオオカミを3匹用意してもらいました。あなたの匂いを覚えさせた、7日間餌を与えていない

飢えたオオカミです。彼らを檻から放ちます。その後洞窟の入り口、あなたにとって出口は、

ブルドーザーで破壊し、封鎖します。では、さようなら。地獄では浮気しないことね。

あ、あとこのテープは自動的に消滅するからそのつもりで。」

絶望。

テープレコーダーはボシュッという音と伴に煙をあげた。

それと同時に遠くのほうでガラガラと岩が崩れるような音がした。

僕はじっくりと的確な恐怖を与えられ、丁寧に殺されようとしているらしい。

まるで昔ながらの喫茶店店主が提供するこだわりのコーヒーみたいに。

僕の足は正常な反応を示した。つまりガタガタと震えていたのだ。

オオカミ。オオカミは何かの比喩だろうか。

たとえ何かの比喩であっても、僕に牙を剥く何かであることには間違いない。

どうすればいいのか、どうしなければならないのか、脳は正常な判断力を失っていた。

正常な判断力があり、オオカミへの対抗手段を考えられたとしても、

僕が今用意できる最強最大の凶器は、胸ポケットにあるモンブランの万年筆ぐらいだった。

オオカミに対してはあまりにも無力だ。どうしようもない。

耳を澄ますと、合計12本の足がシタシタと土を巻き上げる音が聞こえるような気がした。

僕が浮気している間に妻は、僕を殺す計画と狂気を静かに育てていたのだ。

それらが今、僕を捕らえようとしている。逃げ場なし。

洞窟の外にいる妻にとって、今の僕は半分死んで、半分生きている状態だ。

哀れなシュレーディンガーの猫のように。

ただ決定的に違うのは、これが思考実験ではないこと、

そして僕は実際に完全なる死を望まれているということだ。

妻の望む結末。それが裏切られる可能性は残念ながら極めて低い。

僕は懐中電灯のスイッチを切り、目を閉じて、身体を闇に溶かすよう努力した。

気配を消すためではない。痛みを少しでも和らげようとしたのだ。

近くで荒い息遣いが聞こえる。獣の匂いもする。そろそろお別れのようだ。

じゃあな、優子、ちえちゃん、and ミッシェル。それから出会えなかったすべての女性たち。

オオカミはもうすぐ僕の背中を見つけるだろう。彼らにとっては僕の背中が、幸福の後ろ姿だ。

最後に愛しい妻へ。

今、うずくまって泣いているのは、僕のほうだ。

そして僕の背中を見つけるのが君じゃないことが何よりも、僕は哀しい。

(完)

川を見ていた。

  



















色:みどり
水:ふつう
波:無
天気:晴れ
ひとこと:フネです。

昨日の隅田川(仮)





















色:みどり
水:ふつう
波:前日より速い
天気:曇り
ひとこと:これは昨日の様子だ。